ローラはなぜアバターをつくり出したのか? 『作家、本当のJ.T.リロイ』
自伝的小説『サラ、神に背いた少年』で時代の寵児となった金髪の天才美少年作家J.T.リロイ。母親とその恋人に虐待されながら、母を愛し、彼女のような娼婦になりたいと女装の男娼となった彼に、ガス・ヴァン・サント監督は『エレファント』の脚本を依頼し、監督で女優のアーシア・アルジェントは『サラ、いつわりの祈り』の映画化権を熱望した。2006年、そのJ.T.リロイが“実在しない”と「ニューヨーク・タイムス」紙がすっぱ抜く。小説を書いていたのはローラ・アルバートという40代の女性で、彼女のアバターとしてJ.T.を演じていたのは彼女の夫の妹サバンナだと。 U2のボノ、トム・ウェイツ、コートニー・ラブ、マドンナ、ビリー・コーガン、デニス・クーパーら多くのミュージシャンや作家が、J.T.自身と作品に熱狂した。だがそれは、ローラ・アルバートが創りあげた虚像だった。 ベストセラー作家となり、セレブの仲間入りしたJ.T.リロイとはなんだったのか? セレブとの通話記録や記録映像からその意味を探るドキュメンタリー映画『作家、本当のJ.T.リロイ』公開に際し、来日したローラ・アルバートに、映画では掴みきれなかった彼女とJ.T.の関係について聞いた。
天才美少年作家J.T.リロイは実在しなかった 世間から非難を浴びて
――映画の中で、J.T.リロイは存在せず、あなたが頭脳を、義妹サバンナがボディを演じていた事実が明らかになり、つらい立場に立ったあなたを観るのは、正直複雑な気持ちでした。ただ窮地に陥ることは誰にでも起こりうること。あなたはどうそれを乗り越えていったかをお聞かせください。 ローラ:一日一日、一つ一つをやり過していくしかなく、それをデイヴィッド・ミルチ(ドラマ『NYPDブルー』などプロデューサー)らすごくパワフルな友人や尊敬している人たちが支えてくれました。親を亡くしたところに、人からの攻撃を受けて……。私には性的な虐待を乗り越えてきた強さがありますし、子どもがいるので子どものためにも生き延びなければいけないという気持ちで。 私は自著にこう書いています。 「誰でも、本当の自分のことを分かってくれる人が必要だ」と。本当の私を知っている人が何人かいて、今回、彼らは私が悪いやつではないと公言してくれました。周りから攻撃され、「悪いやつだ」と繰り返し言われると、「本当は悪い人間なのかもしれない」と思い込んでしまう。でも彼らがいたおかげで私は、「傷付いていたからこそやったんだ」と思うことができました。 天はあなたが耐えられる以上の試練は与えない――。だから「とりあえず一日生き延びよう」と、そして寝るときに「また明日新しい日が始まる」と思える。子どもたちにも言っているんです。「とりあえず、何でもいいから一日生き延びなさい。そうしたらまた次があるから」って。