厳しい社会情勢だった2024年、日本で読まれたのはホラー小説だった
震災や物価高、緊迫する国際情勢など、厳しいニュースが続いた2024年は、日本のホラー小説が新たな隆盛を見せた1年でもあった。「モキュメンタリー」といわれる実話風の作品の恐怖が、読者の共感を呼んだようだ。本と人との出会いの場を守ろうと、国による書店振興策も始まった。(小杉千尋)
書店振興、国が専門チーム
年間ベストセラーで目立ったのが、ユーチューバーとしても活躍するホラー作家、雨(う)穴(けつ)の作品だ。
奇妙な間取りの住宅をめぐるミステリー『変な家』と続編の『変な家2 ~11の間取り図~』(ともに飛鳥新社)は、総合部門(文庫やコミックなどをのぞく)で、いずれも5位以内にランクイン。この2作と『変な家』の文庫版を加えたシリーズ累計発行部数は、224万部を突破している。
同シリーズでは、「筆者」と表記された人物が、間取り図や現地取材、関係者へのインタビューをもとに、家に秘められた謎に迫っていく。ページには詳しい間取り図が添えられ、読者も謎解きをしながら読み進められる。雨穴の作品では、不自然な絵の謎を解く『変な絵』(双葉社)も人気だった。
ほかの文芸作品では、今年の本屋大賞に選ばれた宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)が3位。続編の『成瀬は信じた道をいく』(同)とともに、我が道を行く「成瀬」の個性的なキャラクターが、多くの読者に好かれたようだ。
統計をまとめた出版取次大手の日本出版販売(日販)は、「『コト』消費の時代に、世界観に没入できる作品が人気を集め、SNSでの拡散でさらなる共感を呼んだようだ」と分析する。
読書の「質」重視
一方、2023年度の文化庁の調査で、1か月に本を1冊も「読まない」とした人が初めて6割を超えた。「読書離れ」が広がる中、読書そのものについて考えさせる本も目立った。
文芸評論家の三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)は、今年4月の刊行後、23万部(電子版含む)のヒットとなった。日本の労働史と読書史をたどりながら、本が読めないほど忙しい現代の生活を考察し、「新書ノンフィクション部門」の1位に輝いた。