大阪ミナミ「外国ルーツの少女」の成長【中編】 父子家庭で父が倒れた高2のメイと支える人たち
外国にルーツを持ち、厳しい状況に置かれている子どもたちを支援する「Minamiこども教室」(大阪市中央区)の様子を追った、ジャーナリスト・玉置太郎氏の著書『移民の子どもの隣に座る 大阪・ミナミの「教室」から』より一部を抜粋し、3回にわたってお届けしています。本稿は2回目です(【前編】はこちら) 【写真で見る】外国にルーツをもつ子どもたちが集まる「Minamiこども教室」の様子はこちら ■高2の春に一変した生活 中学校では生徒会の役員にもなった。1年生の秋、初めて生徒会選挙に立候補する際、教室で演説原稿を書いているメイを見たスタッフが、終わりの会にみんなの前で読み上げることを提案した。
メイは「ええぇ」と渋りながらも、半ばうれしそうに承諾した。そして終わりの会の冒頭、少し硬い表情でみんなの前に立った。 「私は、明るくてみんな仲のいい、思いやりのある学校になったらいいなと思いました。みんなが明るかったら何事にも挑戦できるし、みんなの仲が良かったら1つのことにみんなで取り組めるし、思いやりがあればお互いに支え合えると私は思います。そんな学校になるように、私も一生懸命がんばりたいと思います」
そう演説を締めくくると、子どもとスタッフみんなが拍手と歓声を送った。 堅調だったメイの生活。それが、高校2年の春に一変した。 5月1日、大型連休の最中だった。朝から雨で、メイは父親と自宅にいた。昼ごろ、正三さんがお茶を飲もうとペットボトルを手にしたのだが、なかなかふたを開けられない。メイが「なにしてんのよ」と笑って、代わりに開けた。 正三さんはそのまま横になって眠った。しばらくたって目を覚まし、起き上がろうとするが、うまく体を起こせずにじたばたしている。
「え? なに?」。驚いたメイが助け起こそうとしたが、重くて支えきれない。正三さんが焦り出し、ただならぬ事態が起きていることにメイも気付いた。 とっさにスマホを手に取り、電話をかけた先は教室スタッフのキムさんだった。呼び出し音は鳴るが、つながらない。続けてウカイさんの電話を鳴らした。 教室の女性スタッフとして6年近くメイとの付き合いがあったウカイさんは、「お父さんが倒れて、動けなくなった」と聞き、すぐに状況を察した。