【ロシアが仕掛ける不法移民を使った「ハイブリッド戦争」】欧州で移民懐疑論が高まる実態
欧州が持つ移民への2つの懸念
欧州における移民・難民問題は、二つの理由から多くの国において深刻な政治課題となっている。第一の理由は、ロシアやベラルーシが、EUの人道主義を逆手にとって、不法移民を使って「ハイブリッド戦争」を仕掛けていることである。 例えば、ベラルーシは2021年以降、中東やアフリカ、アフガニスタンからの難民を数万人集めて、隣国ポーランドに送りこもうとし、ポーランドは国境沿いに壁を作って対抗してきた。今回の庇護申請権の停止に関して、欧州委員会や人権団体からの批判はあるも、ポーランド政府は、「国の安全を守る必要がある」と正当化している。 今年の夏には、フィンランドもロシアからの移民に対し、庇護申請の停止措置を講じている。ロシアは否定するが、移民たちの出身国(中東や南アジア)からロシアまたはベラルーシを経由してフィンランド国境までの交通手段を何者かが斡旋していた由である。ロシアおよびベラルーシと「陸の国境」を接しているEU加盟国(ポーランド、バルト3国、フィンランド)の警戒感は非常に強い。
第二の理由は、この数年、ドイツをはじめヨーロッパ各地でイスラム原理主義に基づくテロ事件や移民系住民による殺傷事件が相次いで発生したことである。ドイツでは移民排斥を主張する右派政党への国民の支持が強まっており、不法移民の流入阻止、不法残留者の送還に大きく舵を切っている。また、7月に発足したオランダ新政権も、難民・移民対策を最大の課題として位置付けている。 この関連では、最近ドイツは国境で他のEU諸国との検問を再開したが、ポーランド、フランス、オーストリア、チェコ、スイス、イタリア、スウェーデンは既に同様の措置をとっている。 ウクライナ難民に関しては、国外に逃れたウクライナ人約6百数十万人の内、ポーランドに約156万人、ドイツ約105万人、チェコ約48万人、アメリカ約27万人、イタリア約16万人、フランスに約11万人等が避難している(2023年2月現在)。