ピッチャーの柔軟性は努力か、天性か? 独立リーグの注目株、若き投手のストレッチに注目
「指を動かす筋肉は肘につながっているんです。選手によって張っている箇所や硬い腱は違うでしょうから、一本一本の指を別々に伸ばすのは効果的でしょうね」 廣澤投手は、試合前にはポールを使ってのストレッチもよく行なっていると言うが、その時も掌と指のストレッチは欠かさない。
前期シーズン(四国アイランドリーグplusは前後期制を採用)は主に先発として活躍。完封での白星も挙げた。後期シーズンはリリーフに転向し、先発、リリーフどちらでも力を発揮できることをプロに示している。登板試合にはスカウトが陣取ることも多く、夢だったドラフト指名も現実になりつつある。 最後に、廣澤投手は「自慢のストレッチ」を披露してくれた。親指を前にして手を腰に当て、脚を開いてしゃがみ込む、いわゆる「ヤンキー座り」のような状態から肘を前方に折りたたんで、両脚の間に入れるのだ。取材時に筆者もやってみたが、とてもではないが両ヒザをいくら広げてもその間に腕は入らない。泉田トレーナーに聞くと、「僕もできません」と一言。一般人にはとてもではないができない芸当のようだ。本人が自慢するのもうなずける。 それだけでも十分な特技なのだが、廣澤投手はさらに肘を寄せ、最終的には両肘がほとんどくっつくくらいまでもっていった。自分の上半身を折りたたんだのだ。投手には肩甲骨の柔らかさが求められるというが、まさにそれを証明している。
泉田トレーナーいわく、「やはり他のポジションよりピッチャーのほうが、全体的に体が柔らかい人が多い」とのこと。やはり「プロ予備軍」クラスまで進むには、そういう天性の柔軟性が必要なのだろうか。しかし、その「天性」については、泉田トレーナーは否定的だ。 「廣澤投手はともかく、実際独立リーグレベルだと、まだまだ体が硬い選手は多いですよ。でも、それも日々の努力でなんとかなります。先日、うちの弓岡(敬二郎)監督からこんな話を伺ったんです。監督は、NPBのオリックスで長年指導者をされていたんですが、教え子のひとりにあのイチロー選手がいるんです。現役時代、しなやかな体の動きをしていたイチロー選手ですが、プロに入りたての頃はすごく体が硬かったそうです。ストレッチはやはり日々の努力が大切なんでしょうね」 「ローマは一日にしてならず」の言葉通り、ストレッチも毎日のたゆまぬ努力があってこそ、効果が出るのだろう。 ◆本記事は日本ストレッチング協会 協会誌「CREATIVE STRETCHIING Vol.66」で紹介された内容を再編集したものです。
取材・構成・写真/阿佐智