U-23日本代表、ブレない采配でイラクを撃破しパリ五輪出場決定 チャンス均等で生まれた「ノリ」のよさ
森保一監督ならば、また違った戦い方をしていたかもしれない。韓国、イラクの監督のように、相手に応じて、時間帯に応じて、プレッシングと非プレッシング、守備的サッカーと攻撃的サッカーを使い分けていたに違いない。日頃からそうしたスタイルを「臨機応変で、賢くしたたかな戦い」だと肯定し、実践してきた。今回、あらためて浮き彫りになったのは、五輪出場を決めたU-23日本代表監督と、アジアカップでベスト8に沈んだA代表監督とのスタイルの違いになる。 もちろん、森保式でも五輪切符は掴んでいたかもしれない。だが、筆者の意見としては理想形は大岩式だ。臨機応変よりブレない采配のほうが、チームは一丸となりやすい。 選手の起用法でも大岩監督は理想型を貫いた。できるだけ多くの選手を使い、その結果、五輪切符を掴んだ。U23アジアカップは文字どおり、アンダーカテゴリーの大会だ。五輪での成績と選手育成をクルマの両輪のように追求することが、監督に課せられた本来の使命だ。五輪本大会でさえ、その"縛り"は働く。 「日本で先を見据えて戦うことはまだ早い」とは、2021年の東京五輪の後、選手の起用法を問われた森保監督が口にした台詞だが、アンダーカテゴリー世代での短期集中トーナメントで上を目指そうとすれば、これと真逆な発想でなければ可能性は減る。ちなみに前々回、2016年リオ五輪に臨んだ手倉森誠監督は大岩式だった。 今後、誰が伸びるか定かではないという前提に立つと、チャンスを均等に与える起用法が理想になる。監督のそうした姿勢が選手に伝われば、チームは一丸になる。サッカーは「ノリ」のスポーツだ。精神的にノッた状態でプレーすることが好プレーの源になる。大岩ジャパンの選手たちは、出場した選手すべてがノリよくプレーできていたように見えた。
ここまで唯一、ノリがいいとは言えなかった細谷も、前戦のカタール戦で挙げた大会初ゴールに気をよくしたのか、先制点のシーンでは鮮やかなターンを決めた。藤田譲瑠チマの縦パスも上等だったが、相手のマーカーをいなすようにクルリとターンし、右足のインサイド付近で冷静に流し込んだ細谷の身のこなしは、それ以上だった。 藤田は追加点のシーンでもラストパスを決めている。左で粘った大畑歩夢から横パスを受けるや、荒木にダイレクトで送ったラストパスである。中盤に優秀な人材がひしめき、"中盤王国"と言われたかつての日本を彷彿させるかのような、技巧的なパス交換だった。この手のプレーができるのは、やはりアジアのなかでは日本ぐらいではないだろうか。 また、荒木は面白い存在になっている。4-3-3のインサイドハーフというより、4-2-3-1の1トップ下。FW色、アタッカー色が増した。このポジションの選手に求められるのは、狭いスペースで短時間に高度な技巧を発揮する"瞬間芸"だ。今季のJ1リーグではこれまで6試合に出場し5ゴールを挙げているが、MF色の濃い古典的な10番から、FW化を促進させたことが、ひと皮剥けた大きな要因だと見る。 細谷の先制点は中央攻撃。荒木のゴールはサイド攻撃半分、中央攻撃半分という感じだったが、やはり日本に不足気味なのは真んなかを突く攻撃だ。今後に向けてチームとして追及すべきは、左右、中央と3つある攻撃のルートをいかにバランスよく突くか、になる。 いい攻撃で終わることが、いい守備につながる。いい攻撃で終われないと、守備が危うくなる。前半の日本と後半の日本をそれぞれ短く評価すれば、そうなる。 今後、望まれるのはポストプレーが得意な選手だ。本大会でオーバーエイジ枠を使うなら、ラツィオで復活傾向にある鎌田大地は有効な駒になると見る。これから18人のメンバーにどう絞り込んでいくか。五輪で結果を残したいのであれば、知恵を絞るしかない。
杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki