イラストレーター・神山奈緒子さん(中編)│低山トラベラー、偏愛ハイカーに会いに行く#24
今回の偏愛さん
山梨県甲府市出身&在住。2017 年にイラストレーターとして活動を開始。山で出会った植物や動物からインスピレーションを得て、そのエッセンスを作品に。イラストは企業広告や飲食店の壁画、ワインやビールのラベル、グラスデザインなどキャンバスから飛び出していっている。
アパレルのバイヤー発、小学校の講師経由、イラストレーター着。異業種界を“大縦走”して見出した、自己表現という道
神山さんのイラストの作風は、ひと目で彼女の描いたものだとわかる世界観といい、かわいらしさのなかに繊細さが混在するタッチといい、抜群の存在感がある。とくに色彩に注目したい。彼女の目に備わる特別なフィルターをとおった色素はやや暗めのトーンで、それがかえって光で色味を失わない粒度となり、下地に定着している。色、光、影を大切にしている証拠だろう。写真にも通じる光との付き合い方が、僕には好印象だった。 そのいっぽうで、どこか懐かしい切り絵のような作風が楽しい。山や自然のなかで授かったというモチーフがふんだんに取り入れられており、山好きとしては目を引く作品ばかり。これはほしくなるヤツだぞ。いくらするんだろう……。 たとえば僕の自宅だったら、植物のある和室か、優しい陽射しが入り込む小さな窓枠に立てかけて飾りたいかな。なーんて、まだ手に入れてもいないイラストに、そんな想像をさせてしまう力があるのだから、絵ってすごいよね。 そんな人の心を動かす作品を生み出しちゃう神山さん、絵を描くことは昔から好きだったものの、ほぼキャリアのない状態からイラストレーターを職業として始めたそう。それも、それなりの社会人経験をしてからの独立だったというから、いわば“遅咲き”だといえる。これ、僕とおなじパターンだ! 歩んできた道のりも、じつに独自的。日本の伝統文化を学んだ大学時代は古着発掘の旅に出るほどファッションが好きで、卒業後はアパレルのバイヤーとして活躍。成果を出していたその職をきっぱり辞めたと思ったら、次は学生時代に所得した教職免許を活かして小学校の講師へと華麗なる転身。ともにすごしてきた子どもたちが卒業する ときに“お互いにがんばろうな! ”と熱く握手を交わし、あらためて自分の可能性に目を向けることになったそうだ。身近な人との別れを経験したのもこの時期のこと。限られた人生を、自分の気持ちに従って生きていこうと決心したのは、自然の成り行きだったんだな。 <低山トラベラー、山旅文筆家大内征(おおうち・せい)> 歴史や文化をたどって日本各地の低山を歩き、ローカルハイクの魅力を探究。NHKラジオ深夜便、LuckyFM茨城放送に出演中。著書に『低山トラベル』など。ライフワークは熊野古道。 Photo&Text/S。Ouchi 大内 征
ランドネ編集部