大谷翔平選手が投稿した“ドジャーブルー”の鉄瓶 南部鉄器9代目の挑戦 「ものづくりのバトン」を次の時代へ
■海外の模造品に対抗「越境EC」を開始 もともと「及富」では、菊地さんの曾祖父の代である1954年から輸出に取り組み、ドイツなどでの商談会に参加してきた。しかし、中国での南部鉄器人気を受けて、海外で生産された模造品が急速に広がった。 海外のショッピングサイトには模造品ばかりが並び、商談会では「及富」の隣に明らかな模造品が「NANBU TEKKI」として展示されたこともある。 菊地さんはXで模造品があふれる現状を発信。「世界には本物の南部鉄器を買えないと嘆いている人がいる。彼らに本物を届けたい」という思いを綴ると、賛同した人から協力の申し出があり、クラウドファンディングで約600万円を調達できた。
これを受けて「及富」は鉄器業界ではいち早く、2022年に国際発送が可能な越境ECでの販売をスタートさせた。今では国内ECと越境ECでの売上が、売上の半分以上を占めるまでに成長しているという。 ECだけで見ると、国内と海外の割合は2:1。円安の影響もあって輸出はさらに増加を見込んでいる。その矢先の今回の大谷選手の投稿だったというわけだ。 「SNSから生まれたつながりがあったから越境ECが生まれ、SNSの声が新しい商品の開発にも活きている。これからもものづくりの背景にある物語を伝えていきたい」
そう語る菊地さん。根源にあるのは、ものを作るという人間のいとなみへの敬意なのだという。 「代々続いてきた南部鉄器は、守ってきてくれた人たちのおかげで今があり、それをつないでいくのが自分の使命です」 揺るがない哲学と時代に合わせた流通で、ものづくりのバトンを次の時代につないでいく。
手塚 さや香 :岩手在住ライター