「フェムテック」の生みの親たちが語る、その未来。
イダ・ティン 起業家、作家。デンマークで生まれ、家族とともに世界中をバイクで周遊。その時の経験をもとに2009年に執筆した『Direktøs』はデンマークでベストセラーに。13年、ドイツで仲間とともにClueを共同創業。https://helloclue.com/ ――2016年にフェムテックという言葉をつくった時のことを教えてください。サンフランシスコで行われたテックカンファレンスに参加していた時のことだそうですね。 イダ 女性の健康に関する討論に参加することになり、ほかの女性パネリストたちがどんな言葉で自分の活動を表現しているかを事前にリサーチしました。するとみんな女性の健康とテクノロジーという近いフィールドで活動しているのに、用語はバラバラ。共通の用語があれば 活動に関心を集めやすくなるし、投資を得やすくなる。とはいえ私が勝手に用語を作ったら、気に入らない人がいるかもしれない(笑)。だから、用語があったほうがいいと思う? と聞いて回ったら、みんな「それはいい考えだね」と言ってくれたんです。 金融(finance)とテクノロジー(technology)を合わせたフィンテック(fintech)や、教育(education)とテクノロジーを合わせたエドテック(edtech)という言葉がすでに存在していた。それなら、女性(female)と合体したフェムテック(femtech)が一番シンプルだと考えていました。 そして、ほかのパネリストに「何がいいと思う?」と尋ねたら、誰かが「フェムテックはどう?」と言ってくれて。「ええ、私もそう思ってた! じゃあ、これでいこう」と話がまとまったんです。 文化は違ってもアウェアネス(意識)は共有できる。 「フェムテック・フェス!」は、もともとはフェルマータCEOでBWA Award 2021のアワーディでもあるAminaが仲間とともに始めたイベントだ。女性の抱える健康課題は国境を越える、まだフェムテックという言葉が知られていない日本でも必ずニーズはある──そんな思いから始まり、本年で4回目の実地開催となった同フェスには、3日間合計で過去最多となる5000人以上が来場した。 フェムテックへの関心の高まりをうかがわせた今回のイベントを通し、Aminaとイダ・ティンの目に映ったフェムテックの未来とは? ――Aminaさんは初めてフェムテックという言葉を聞いた時のことは覚えていますか。 Amina 縁あってスタートアップを支援する会社で働き始めた2017年には、すでにその言葉があったと思います。ただ、ショックだったのは、テックという言葉が使われる市場に対しては巨額の投資が行われていたのに、当時フェムテックはほとんど注目されていなかったこと。農業のテクノロジー化や空飛ぶ自動車といった分野への投資は人気がある一方で、フェムテックの会社は10万ドルを集めるのに苦労している。この分野にニーズがあることは明らかなのに、なぜ投資がないの? と疑問でした。だからこそ、ここにビジネスチャンスがある。そう感じていました。 ――イダさんはフェムテックはジェンダーの架け橋になると語っていらっしゃいますが、それだけではなく、文化や宗教の架け橋にもなると思われますか。 イダ ええ、そう思います。女性たちは異なるニーズよりも、共通のニーズのほうが多い。製品を成功させるには各文化に適応する必要があり、たとえばエジプトで妊活をサポートする場合、インドやドイツで行うのとは感覚が違うでしょう。 けれども根底となる技術や教育は共通です。文化にフィットさせるためにちょっとした工夫をすればいい。女性の健康の課題に対するアウェアネス(意識)は共有できるし、テクノロジーがあればそれをシェアすることができる。 ちょっと話題がそれるけれど、ビジネスの成功の定義が変わり始めていると思いませんか? Amina そう思います。私がベンチャーキャピタルにいた当時、成功の定義はとても狭く、利益を出せば成功だと考えられる傾向がありました。その意味でフェムテックはとてもおもしろい分野です。どの製品もサービスも、重要な課題を解決したいという思いで作られている。社会課題の解決という点で、フェムテックは先駆者だと思う。 イダ その通りですね。