意外と知られていない…学問は「直進タイプ」と「反復タイプ」の2種類に分かれていた!
哲学、物理学、生物学……こうしたさまざまな学問が、「直進タイプ」と「反復タイプ」の2種類に分けられる、と社会学者の大澤真幸さんは言います。 【画像】社会学者フロイトに、エディプス・コンプレックスが生まれた日 「直進タイプ」と「反復タイプ」とはいったい何なのでしょう。 【本記事は、大澤真幸『社会学史』から編集・抜粋したものです。】
生物学の歴史を知らなくても生物学はできる
学問には2種類あります。 たとえば、生物学。生物学の歴史も重要だし、おもしろいと思います。しかし、生物学をやるのに生物学の歴史を知らなくてもいい。もちろん、ダーウィンの進化論とか、いまでも生きている学説は知らなければいけません。しかし、200年も300年も前の学説を知らなくても生物学はできます。物理学はもっとそうです。だから、歴史についての研究と生物学や物理学は完全に別の話になる。 逆の学問もあります。典型は哲学です。哲学というのは──ジャンルにもよりますし、分析哲学系の人にとってはやや違いますけれど──、基本的には哲学即哲学史なのです。哲学史と哲学が別にあるわけではない。そのような哲学をやった一番典型的な学者はハイデガーです。彼の哲学はすべて哲学史。もっと新しいドゥルーズやデリダにしても、みんな哲学史です。たとえば「スピノザについて論じる」というかたちで、自分の説を語っているわけです。 だから、歴史について論じることがその学問そのものになるものと、その学問そのものは歴史とは別物になるものと、2種類の学問があると言えます。 どうしてそういう違いが出るのかを考えるとけっこうおもしろいのですが、ここでは簡単に言っておくと、学問には「直進するタイプ」と「反復するタイプ(螺旋状に反復しながら進むタイプ)」があるような気がします。 たとえば、自然科学系のものは直進するわけです。前の説があって、それを捨てて新しい説がある。だから、過去にすでに捨てられた説についてわざわざ知らなくても──たとえばアリストテレスが運動についてどういうふうに考えたかを知らなくても──、一流の物理学者になることができる。 それに対して「反復するタイプ」では、同じ問題に何度も何度も回帰します。だから、プラトンが考えたことを現在のわれわれも考える。それで、哲学ができるという構造になっています。 こういう2種類の学問があって、社会学はどちらに属するか。社会学の場合は、両面あります。 われわれがいま生きている社会は、広い意味での近代社会なので、社会学が生まれた時と基本的には同じロジックで動いています。だから、最初の社会学者の中で優れた洞察力をもって根本を見抜いた人のアイデアは、今日、われわれがそれを再検討しても十分に意味があります。ですから、社会学史は今日のわれわれにとって非常に有意味であるということで、これからお話ししたいと思います。 *
大澤 真幸(社会学者)