風邪っぽい症状が続き…「コロナかな?」しかしその後、道端で過呼吸に。判明した病とは
1型糖尿病は自分にとって第二の人生
たいきさんはSNSで、自身の病気について発信しています。そのきっかけは、SNS上でつながった同じ病の患者さんの生活を見たことで救われたからでした。 「自分で食べ物を制限していた時期にうつになってしまって、こんな大変な生活を他の人はどうやっているんだろうと思い、そこで初めてSNSを情報収集のために使い始めました。1型糖尿病はハッシュタグをつけて検索するとたくさん投稿が出てきます」 その人たちの生活を見たところ、ラーメンを食べていたり、ビールを飲んだりしている投稿があったのです。たいきさんはラーメンもアルコールも一切絶っていたため、そのような投稿を見て「血糖値さえコントロールできたら今までのような生活も送れるんだ」と初めて知ることができました。 そして、自分の体験談や経験談も誰かの役に立つのかなと思い、そこからたいきさんも病気に関するSNS発信を始めますが、そこでは批判的な反応とポジティブな反応が…。 これまでSNSの発信を見ていたたいきさんは、発信している方の中で動画を作成している方が少ないことに気づきます。そしてどうせやるなら、たくさんの人、同じ病気の人とつながりたいという気持ちから、ショート動画をTikTokなどで投稿してみることにしたのです。最初にバズったのは、ディズニーランドでの食べ歩きで何回注射を打つのかという動画でした。 それが300万回再生され、「やった!これで同じ病気を持つたくさんの人たちと繋がれる!」と喜んだたいきさん。しかし、期待に胸を膨らませながらコメント欄を開いてみると、そこには批判的なコメントが多数寄せられていました。 「自分が不摂生な生活をしていて糖尿病になったのに、それで辛いような発信をしているのは変だ」 「その医療費が税金で賄われるのはどうなんだ」「自己責任だろ」 など、多くの批判的なコメントが寄せられ、そこで初めて糖尿病に対する偏見を肌で感じました。 「生活習慣関係なく急に発症したのに、なんでこんな叩かれなきゃいけないんだろう」 しかしその後、同じ1型糖尿病の5歳の息子を持つお母さんからこんなメッセージが届きました。 「発症してからずっと大変でしたが、注射を打つのも嫌がっていた息子に『動画のお兄さんも同じ病気だね』ってたいき君の動画を見せたら『僕もがんばる!』って自分で注射を打ってくれるようになりました 」 たいきさんはこの言葉をきっかけに、「なぜ自分はこんな病気になったのだろう…」と悩み続けていた心の引っかかりが、「もしかしたら、自分はこのために病気になったのではないか?」と思えるように。 「自分で自分の病気を正当化して、なんとか病気を受け入れたくて勝手にそう思うようにしたところもあるけれど、ただそう思うことで自分の中で先の見えない状態から光が差すような、視界が開けるような感じがしました」 糖尿病になってから「自己責任だろ」などと言う人もいましたが、反対にすごく優しくしてくれる人もいました。その経験は「病気になっていなかったら、ここまで人の思いや優しさに気づくことはなかったかもしれない」と、たいきさんの中で人の温かみの原点に触れ、考えるきっかけとなりました。また、自分以外にも世の中にはいろいろなことで大変な人がいて、さらに内部疾患は周りから見て気づけないことのため、自分の無知が知らず知らずのうちに人を傷つけていたかもしれないということにも気づかされたといいます。 言葉で傷つけることもあるんだろうな…と自分も含めて気づくことができたたいきさんは、このタイミングで人とのかかわり方を考え始めます。 「こう考えさせてくれたのも病気のおかげです。現時点で僕が注射を打たない体に戻ることはほぼないんですよ。病気になったときは死ぬ寸前で手遅れになる前。インスリン注射を打たない生活にはもう戻れないからこそ、今は自分の中では第二の人生だと思っています。第二の人生では、人の温かみを気づかせてくれたこの病気で苦しんでいる人のために使おうと思って、SNSの発信活動にも本腰を入れて、糖尿病は自己責任という偏見を解消するためにやっていこうと思いました」と現在の思いを話してくれました。 インスリン注射を打つ姿や、血糖値に関する検証なども発信しているたいきさん。 しかし、最初にSNSを見始めたときは同じ病気の人のキラキラとした前向きな発信がうらやましくて目についてしまい、当時の自分としてはきつく、辛いところがあったといいます。 「同じ病気なのにこの人たちはどうして前向きで明るくいられるんだろう、前を向けていない自分はなんてダメな人なんだろう」と比較をしてしまっていたのです。 だからこそ、たいきさんは自身の発信において、辛かったことや失敗したことなど、自分のリアルな姿をしっかりとさらけ出すことを意識しています。 「いいことだけではなくて、辛いこともちゃんと発信することで『そんな思いをしているのはあなただけではないですよ』ということを知って心の支えになれたらな…と考えています」 たいきさんのSNSには、自転車での日本一周や、マラソンへの挑戦も投稿されています。 普段から運動をしていたわけではありませんでしたが、自転車を始めたのがうつ状態を脱するきっかけになりました。たいきさんの地元に自転車が好きで、でも誘い方が強引すぎていろいろな人に避けられていた先輩がいました。たいきさんが家にいたときも「ずっと家に引きこもっていちゃだめだよ、自転車に乗れ!」と連絡が来たと話します。 最初誘われたときは「なんだこの人は!」と思ったといいます。 「僕が今どんな状態か知っているはずなのに誘ってくるなんて、なんてひどい先輩なんだ」と。誘いは1度だけではなく、何回も何回も連絡が来て「もうわかりました。1回だけですよ」とたいきさんが折れて「もう低血糖になってもいいや」という気持ちで初めてスポーツバイクのような自転車に乗ることに。 たいきさんはその先輩と、自転車で森の中を走りに行きました。家の中ではご飯が食べられなかった当時、動悸がずっと止まらなかったため「この動悸が止まらなくなって大きくなったら、また救急車で運ばれる感じになるのかな」とトラウマを抱えながら自転車に乗ったといいます。しかし、これまで止まらなかった動悸がその瞬間、スーッと落ち着いたように感じたのです。 「トラウマがフラッシュバックすることを恐れていましたが、外に出て自然に触れることがどれほど大事かを実感しました」と語るたいきさん。 それがきっかけでうつ状態も改善され「これ以降も自転車に乗っていきたいな」という思いを抱きます。 その後、たいきさんは「自転車で日本一周をしよう」と決意しました。それは、SNSを通じて同じ病気を持つ方々から多くのメッセージを受け取り、「実際に会いに行きたい」と感じたことがきっかけでした。 しかし、ネット上で発信を続ける中で「このままの形で発信を続けていいのだろうか」と悩む瞬間もありました。糖尿病という病気は非常にセンシティブなテーマであり、医師ではない立場から発信できる内容には限界があります。さらに、意図しない形で受け取られ、それが炎上に繋がることもあると感じていたのです。 そこで、まずは病気について深く理解をしなければならないと感じたたいきさんは、全国の患者さんやお医者さんに実際に会ったり、お話を聞いたりしたいと思い、日本一周に向けて出発。公共交通機関や車で行ってもただの旅行になってしまうため、考え得る一番きついと思った手段で行こうと、自転車で日本一周をすることを決意したのです。 世の中の低血糖が怖くて運動ができない方、本当はこういう部活をやりたいけどできていない子どもたちに向けて、それを口だけで「大丈夫ですよ」「こうすればできるよ」と伝えるのではなく、実際に体現してその姿を見せることで伝えていきたいという強い思いがありました。 またその後、実際にSNS上の人と会ってみて、年齢層がばらばらだったことに気づいたたいきさん。 「直接会わないとその人がどんな思いで何を求めていて、どういう感情で自身の投稿を見ているのかわからないので、実際に会うことで得られる情報があったのは嬉しかったです。 医療業界に対してもリスペクトが持てる発信をしたかったので、日本一周する中でお医者さんに話を聞きに行ったりなど、様々な方に出会えたことはとても勉強になりました」 SNS上では多くいると感じる1型糖尿病ですが、現実では糖尿病全体の約5%ということもあり、なかなか出会うことができませんでした。 そこで日本一周のときに驚いたのは「初めて同じ病気の人に会いました」と言う人が多かったことです。出会った人の中には発症して20年目の方も。そのような人も「同じ病気の人に会いたかったけど、今まで出会う機会がなかった」といいます。地方だとイベントがなかったり、情報収集ができなかったりします。専門医の人がいないこともあり、地方との医療格差も実感したとたいきさんは話します。 その県にはその人が知らないだけで、同じ病気を患う方が集うためのイベントが開催されていることもありました。 「なぜ、情報が届いていないのか」と考えたときに、医療従事者の方は忙しいため、イベントのことを当院のブログに書くだけで終わってしまうことがあるといいます。それに対して「患者はどうやってそのブログにたどり着くの?」と思う節があったたいきさんは、自分の発信がそこのハブになれたら…と語ります。 「糖尿病界隈の外に発信することも意識していく中で、既存の糖尿病関連の発信が届いていない糖尿病患者の方にも有効なんじゃないかと思います。だからこそ、日本一周のときにも初めて同じ病気の人に会いました、という人と会えていると思っています」 自転車に乗るきっかけとなった先輩とは、今も一緒に自転車に乗る仲間だといいます。誘われた当時のたいきさんは、周りに同じ病気の人がいない状況で自分を卑下するようになり、次第に人が離れていくことを感じていました。本当は言いたくないけれど、「健常者だから簡単に言えるんでしょ。そんな風に言わないでほしい」という思いを抱えていたといいます。 「人からのアドバイスや合理的な話は聞きたくなかった」と振り返るたいきさん。その一方で、何かを体現し、行動で示してくれる人々の活動には本当に救われたといいます。1型糖尿病を抱えながらマラソンに挑戦したり、プロ野球選手として活躍したりする姿を見て、「かっこいい」と強く感じたそうです。 「プロ野球選手になること自体が普通でも大変なのに、1型糖尿病を抱えながら選手になるなんて相当な努力をしたんだろうなと思います。そういった姿に『自分もこんな人になりたい』と憧れを抱いていました」と話していました。