新潟県佐渡市が促進する「二地域居住」と「長期滞在」、持続可能な誘客戦略へ、世界遺産「佐渡島の金山」をフックに
2024年7月27日、「佐渡島の金山」の世界文化遺産への登録が決定した。1997年に市民団体による世界遺産登録に向けた運動が始まってから27年。紆余曲折を経て、悲願がやっと実を結んだ。佐渡市地域振興部移住交流推進課の西牧孝行課長は「正直なところ、ホッとしたという気持ちの方が強い」と胸の内を明かす。 今後、来島する観光客が増加すると見込まれるなか、佐渡市では、「佐渡島の金山」をフックとしながら、持続可能な誘客戦略を進めていく。そのキーワードは、関係人口の創出や移住定住につながる「二地域居住」と「長期滞在」だ。
官民で二地域居住と長期滞在を推進
二地域居住とは、都市部と地方部に2つの生活拠点を持つライフスタイルのこと。政府も、地方への人の流れを創出・拡大し、地域に愛着を持つ関係人口を増やす目的で2024年5月に「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律」を成立させた。 佐渡市も、この取り組みを重視する。西牧氏は「日本全体で人口減少が進むなか、各地域で移住者の奪い合いが起きている。今後、移住政策だけでは通用しないのではないか」との問題意識を示したうえで、「移住してもらうだけでなく、ある時期に佐渡に来てもらって仕事をしてもらうなどの仕組みが必要」と話す。 その仕組みの一つとして、佐渡市と都市部との二地域だけでなく、新潟県内の市町村との連携も視野に入れる。「例えば、その人のスキルに合わせて、春から夏にかけては佐渡で暮らし、秋から冬は、他の市町村で暮らすこともあり得るのではないか」と西牧氏。域内での関係人口創出にも意欲を示す。 また、佐渡市では、行政だけでなく、民間も二地域居住に向けた取り組みを積極的に進めている。市内で宿泊施設やコーワーキングスペースを運営するPerchは、国土交通省が推進する二地域居住や移住などに向けた「移住等の促進に向けた実証調査」に採択された。魅力的な二地域居住の受入れ体制を構築するために、自然環境を活用して、地域社会における持続可能な農業や持続可能なエネルギーへのシフトなどのテーマに沿った「学び」「実践」「共有」の循環型体験学習プログラムを提供していく。 西牧氏は「佐渡で暮らしてもらうためには、『佐渡が面白い』『佐渡では豊かな暮しができる』と思ってもらえる体験が大事になってくる」との考えを示す。最近では、SUPやシーカヤックなどの体験メニューも増えてきたという。 体験コンテンツの充実は、滞在時間の延長や長期滞在の可能性にもつながる。世界遺産の「佐渡島の金山」というキラーコンテンツはあるものの、例えば新潟市を拠点に日帰り訪問が増えれば、地域経済への恩恵は限られてくる。 その課題解消に向けては、体験とともに宿泊施設の充実が求められているところだ。そのなかで、地元DMOの佐渡観光交流機構が観光庁の「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」に採択され、宿泊施設の高付加価値化を進めている。西牧氏は「インバウンドも含めて、滞在の満足度を高めていかなければ、長期滞在につながらない」と話す。