自民党総裁選での経済政策論争⑥:労働市場改革
解雇よりも自発的な転職を促す施策が重要
しかし、小泉氏と他の候補との議論は、依然としてかみ合っていない。労働市場を流動化させることについて異論を唱える候補はいないが、小泉氏は、企業に解雇された労働者への対応を議論しているのに対して、他の候補者は、自発的で前向きな転職を促す施策の推進を議論しているのである。 一口に、労働市場の流動化といっても、現状ではまず自発的な転職を活性化させ、それを給与の増加や産業構造の高度化につなげる施策を優先的に考えるべきではないか。 こうした観点からは、小泉氏も提案するリスキリング、ジョブ型の給与制度の拡大などは重要だ。林氏は、「リモート、副業、リスキリング、ジョブ型をもっと推進していく。働く環境ももっと自由に働きたい場所で自分が働きたい時間にというイメージにしたい」、「ジョブ型の仕事を増やしていく。メンバーシップ型で、年功で上がっていくのを変えていけば自発的意思でいろんな選択肢を選んでいく」などと語っている。 小林氏も「大切なことは失業なき労働移動。企業ではなくて労働者側の視点に立ち、自発的な意思に応じて流動性を高めることがあるべき姿だ」と説明し、リスキリング(学び直し)強化などの重要性を訴えている。
岸田政権の「三位一体の労働市場改革」との関係が不明確
すべての候補者が支持する労働市場の流動化を促す労働市場改革について、問題であると感じるのは、岸田政権が掲げてきた労働市場改革について、候補者が何ら語らないことだ。 岸田政権は、リスキリング、ジョブ型制度の拡大、労働市場の流動化の3つを掲げ、「三位一体の労働市場改革」とした。この政策は成長戦略の一つとして重要であり、次期政権にもしっかりと引き継がれるべきと考える。各候補の考える労働市場改革も、その延長線上にあるように思えるが、岸田政権の労働市場改革との違いなどには言及されない。 この労働市場改革に限らず、新たな経済政策を打ち出す場合には、それに先立つ政策の功罪をしっかりと分析、評価し、それとの関係を丁寧に説明することが重要だ。候補者には、この点にも配慮して議論を進めていって欲しい。 (参考資料) 「自民党総裁選「雇用・働き方」発言を追う」、2024年9月21日、日本経済新聞電子版 「【自民党総裁選2024】小泉氏、生活支援も検討 解雇規制巡り批判回避」、2024年9月22日、産経新聞 「【自民党総裁選2024】小林氏、解雇規制緩和「慎重に」 消費税増減は考えず」、2024年9月20日、産経新聞 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英