東大エースが「特別な投げ方」を短期習得できたワケ 元プロ父も尊敬する“研究過程”
感覚をノートに記して日々研究…「アンダースローで行く」と決めたのはこの1年
息子が悩んでいても、簡単には答えを提示しなかった。悩んだ末に自分で方向を決めることの大切さを、自身の経験から知っていたからだろう。渡辺氏が言葉をつなげる。 「東京六大学で東大以外のバッターを相手にするっていうのは、普通じゃ難しいですからね。仮に140キロが出たところで、特殊な球種や技術がなければ難しい。自分の中でだんだん研究を重ねていくうちに、アンダースローに近いほうで投げたほうが打ち取れる手応えみたいなものを掴んでいったようです。本人が『アンダースロー1本で行く』と決めたのは、ここ1年くらいの話でしょうね」 向輝投手が自分自身で導いた結論だった。息子がアンダースローになってからの親子関係も興味深い。 「僕のマネはしていないってアイツは頑なに言い張っています。でも困ったときには相談してくる。そこで1つ2つアドバイスすると、素直に取り入れてやってみて、ああだった、こうだったということの繰り返しです。手取り足取り『こうしろ』というのは、僕からはやりませんね。投げていて『ちょっと気になるな』と思っても、結果が出ている時は何も言わずにいます」 息子は悩んだり困ったりすると、自宅に帰ってシャドーピッチングをするのだという。 「急に僕の前でシャドーピッチングが始まる(笑)。何か言ってほしいのかなと思っていると、『あのさ』って切り出してきて、会話になる。そのうちに僕に対して『実際にやってみて』と言ったりするので、『こういう感じ』って僕が見せる。すると、本人が試してみて『ああ、わかった』とか『それはわかりづらい』とか……そういうやり取りは、都度ありますね」 息子が努力をしている姿も見逃さない。「本人はすごく試行錯誤して、毎日、自分でノートを取っているんです。今日はこれを試して、こういう結果になった。あるいは、こういう感覚だった。または、こういうトレーニングをやったとか。プロや社会人でもあまりいないですよね。自分の感覚などに対する研究は、高校生からずっとやっているって言っていたかな。メモを取り続けたデータがあるようです。僕が何気なく言ったことも全部メモして残っていますね」。 父親も、そういう選手だったのだろうか。 「僕はそこまではやっていないですね。実際に投げる中で、自分の感覚を残して数をこなしながらやっていくっていう感じでした。だから、彼がすべてを記録として残して積み重ねていくのは、尊敬に値する。プロ野球を含めて、野球人の中でもかなりしっかりやっている部類に入ると思います。だから、ああいう特別な投げ方を短期間でマスターしたのでしょうね。十分に頷ける努力はしていると思います」