社会人野球最高の舞台・東京ドーム目指す「クラブチーム」 「打倒・大企業」の情熱と組織づくりとは
「正直、ある程度の企業チームさんには負けない練習環境ですよ」。雨のグラウンドでウオーミングアップする選手たちを、監督の西川忠宏さん(63)が頼もしそうに見つめていた。 ▽NPO法人に マツゲン箕島は、1996年に箕島高校野球部の卒業生を中心に立ち上げた「箕島球友会」が前身。2019年からは、和歌山を中心にスーパーマーケット事業を展開する「松源」(和歌山市)をチーム名に冠した。同社は長年チームのサポートを続け、現在は選手全員の雇用も担っている。 創部10年目の06年には都市対抗に並ぶ冬の全国大会「日本選手権」に初出場するなど、着実にチーム力を向上させてきた。翌年にも同大会に出場し期待も高まる中で、集まる支援金の額も年々膨らんでいた。 「額が大きいと、責任も大きくなる。ちゃんとクリーンに管理していることを示して、信用されるクラブにならないといけない」。そう考えた西川さんは法人化を決定。08年にNPO法人「和歌山箕島球友会」を設立した。和歌山のスポーツ振興や青少年の健全な育成を活動目的に掲げ、法人傘下に球団を置く。法律で義務付けられる事業報告書を作成し、収益や経費を明らかにした。「支援する企業からの目が変わりましたよ」と西川さんは手応えを語る。 ▽年間1千万円寄付
NPO法人化で生まれた最大のメリットは、ふるさと納税制度を活用した支援の拡充だ。 総務省によると、地域活性化などを目的に、ふるさと納税の寄付先としてNPO法人を選ぶ自治体は少なくない。箕島球友会は、拠点を置く有田市内の支援先として15年度から採用され、多いときで年間1千万円を超える寄付が寄せられた。22年度は約930万円。全国には資金繰りに苦しむクラブチームも多い中で「十分うまくいっています」と西川さん。 支援を受けるだけではない。同じ15年度からは、地元の活性化に貢献しようと、市のパートナー制度に参加した。月に1度ほど公園の草刈りや施設清掃などに従事している。市の担当者は「どうしても市の職員だけでは手が足りないこともある。若者が年々減る中で、若くて力仕事ができる球友会さんの存在は助かります」と歓迎する。地域を支え、地域に支えられる好循環が生まれているようだ。 西川さんは「これだけ支えてもらっている以上、そろそろ結果を出したいですね」と頭をかく。19年の日本選手権出場以降、近年は企業レベルの全国大会に出場できていない。「環境と野球への熱量は他のチームに負けませんよ」。地元の応援を背に、今日も練習に打ち込んでいる。
× × B―net/yamagataとマツゲン箕島は、6月までに行われたそれぞれの地区予選で惜しくも敗れ、7月19日に開幕する東京ドームでの本戦出場はならなかった。開幕試合には、昨年優勝のトヨタ自動車が登場。アマチュア野球最高峰の戦いは間もなくクライマックスだ。 大企業チームにはない苦労や課題を抱え、乗り越えようと奮闘する全国のクラブチーム。夢の頂点を目指す戦いは、もう始まっている。