君はホームズかポアロか?ルナ企画の『京都ミステリーツアー』
当時の懐かしい広告とゲーム画面で、国産PCの歴史とノスタルジーに浸れる連載コーナー。今回は、ソニーのパソコン・SMCユーザーにはお馴染みかもしれないソフトハウスとなる、ルナ企画のデビュー作『京都ミステリーツアー』を取り上げます。 【画像】ルナ企画のカセットテープソフトは、市販のカセットテープの上からタイトルなどが印刷されたシールを貼ったものとなっていたため、下地が透けて見えます。ちなみに裏面は、市販テープそのままのラベルとなっていました。 1980年代前半は、数少ない人数で活動していたソフトハウスが多数存在していたのはご存じかと思います。中には1人、2人というレベルのところもあったようですが、今回取り上げた作品を手がけていたソフトハウス・ルナ企画は、それともまた違っていました。それは、メンバーのほとんどが“ムーンライター”と呼ばれる人たちで、メインの職業を持っているため主に夜間にムーンライト(いわゆる月明かり)の元でプログラムを書くことから、そう呼ばれていたようです。 そんなルナ企画のデビュー作となったタイトルが、1983年4月に発売された『京都ミステリーツアー』でした。ストーリーはカセットテープケースの化粧紙に書かれた「一枚の紙片にしるされた謎の言葉。ミステリーアドベンチャーへの旅立ち。君はホームズかポアロか?」のみとなっていて、ゲームを起動しても「このゲームにはマニュアルがありません。ルールも仕組みも、すべてあなたが考えるのです(後略)」となっています。かなり投げやりな感じではありますが、幸いにルナ企画は、調べた範囲では一度だけ広告を出していたことがあり、そこに本作のあらすじが掲載されていたので、それを紹介しましょう。 朝鮮戦争の景気にわく日本、右翼の大立物・佐々木は、脱税により得た金を、プラチナにかえ京都市内の某所にかくしました。その直後、国税当局の摘発をうけ、逮捕された彼は、厳しい追及に自白もせずに、ガンバリました。しかし、心労の為、急死したのです。時価10億円のプラチナは、地中深く埋められ、謎のベールをかけられてしまうかに、思えました。 ところが、佐々木は、万一に備え、寄進した寺社に、手がかりを一つずつ残しておきました。手がかりは、順序だてて、手に入れないと、宝のありかには、たどりつけません。又、決められた、言葉(キーワード)を知る者以外には、たとえ、手がかりを聞かれたとしても、完全には教えない様に、寺社にいい含めていたのです。 あなたは、古本を買い、読んでいるうちに頁の間から、佐々木の残した、第一の手がかりを手に入れました。このチャンスをものにして、あなたは、10億円のプラチナを手に入れるか……?! 京都へ、財宝へ、ミステリアスな旅が、今はじまります。 プレイヤーはゲームの主人公となり、京都市内を探索しながら寺社を巡って手がかりを入手しつつ、最終的には10億円のプラチナをゲットするのが目的となります。主人公は最初に8万円の所持金がありますが、お宝を発見するまではゲーム内の時間でおおよそ10日間かかり、宿泊するためのホテル代や食事代、交通費などもここから捻出する必要があるため、決して潤沢とはいえません。 移動方向に関しては“キタヘ”、“ミナミヘ”、“ヒガシヘ”、“ニシヘ”を使い、“チズ”と入力すると京都市内の簡易的なマップを見ることができます。これらコマンドを駆使して手がかりを探すのですが、夜はホテルに泊まらなければならないし、日中は食事を取る必要があるため、なかなか思うようには進みません。 ヒントを参考に京都を探索するものの、主人公は食事を取らなかったり、15時半から16時くらいに外にいると活動限界となって、どちらもゲームオーバーになってしまいます。あまりにも簡単にゲームが終わってしまうことから、プレイヤーからは「京都は怖い場所」「京都は恐ろしいところ」などと言われていたという噂もあったようです(!) そんな広い京都を移動するのに、頼りになるのが“バス”コマンドでした。これを上手に利用して、京都の各所にある寺社を巡り手がかりを入手していくのでした。 実際にプレイしてみると、コマンドを入力するシーンが用意されているものの、全体的には効率に特化したシミュレーションゲームっぽく、シンプルな見た目に反して難易度は高いです。ちょっと欲張って移動したり寺社を探索すると、あっという間に活動限界がやってきてゲームオーバーになるので、地図を紙に書き写して効率的な移動方法を考えてからの行動が求められました。しかし、ゲームオーバーを繰り返しつつも、やりこむほどに先に進めるようになるため、非常に面白いのは間違いないでしょう。 余談ですが、手元にある『京都ミステリーツアー』はバグがあったため、昨年にクリアを目指してプレイしていた知人たちがデバッグ作業を行って、完全版に直していました(笑)。あの時代は、もしかするとバグありのまま流通してしまったゲームも多かったのかもしれません。 ミステリーアドベンチャーというジャンルで立ち位置を確立したルナ企画はこの後、青木ヶ原の樹海をネタ元にした作品を発売するのですが、それは次の機会に取り上げたいと思います。
AKIBA PC Hotline!,佐々木 潤