頑固な社会の仕組みを変革へとくすぐる「トランジション・マネジメント」
◇「化石燃料の使用禁止」とは違う脱炭素の手法を、強制せずに浸透させる トランジションが求められる世界的な課題の例として、最もわかりやすいのが気候変動の問題です。いわゆる産業革命の時代から300年近く、人類は化石燃料を使ってきました。250年くらいはとくに問題視されず、便利なのでどんどん使ってきたわけですが、そのことが地球に悪影響を与え、気候がおかしくなってきていることに気づきます。今まで見ていなかった地球のシステムとの間で、どんどん齟齬が拡大してきたわけです。そこを補正するための手段が脱炭素です。 「明日から化石燃料の使用はやめましょう」という呼びかけにミクロレベルが従えば、問題となる量のCO2は出なくなり、マクロレベルとメゾレベル間の矛盾が解消されますが、現実的に不可能です。かといって先送りにすれば問題がさらに深刻化しますし、諦めてしまえば人類は滅亡します。いかにして脱炭素の方向へと社会を変化させられるか。昔のように、化石燃料の使用禁止をいきなり制度化する以外の方法で実現へとつなげるのが、トランジション・マネジメントです。言い換えれば、新たな技術やノウハウを取り入れ、そこから実現可能なやり方を模索して、社会の構造を変えようとする試みなのです。 考えうる一つめの手段は、新たな技術を活用することで、移動での排出を限りなく減らすこと。たとえば、EV(電気自動車)に乗り換えたり、飛行機にバイオ燃料を使ったりといった方法です。二つめは、飛行機ではなく電車に乗る、自動車ではなく自転車に乗るなど、移動の方法を変えること。三つめが、そもそも移動をしないこと。みんながテレワークをすれば、移動のために使う化石燃料は大幅に減ります。そういった転換を、あらゆる分野で行わなければいけません。 しかしEVに買い替えるにしても予算が必要です。EVのバッテリーをつくるのにも、原料となる希少金属が枯渇しそうだったり、採鉱のためにアフリカでの児童労働が酷くなったりと、あらゆる問題が絡まってきます。移動の方法を変えることにも限界がありますし、物流なども不可欠ですから「一人ひとりが移動しなければ済む」という話でもありません。それらに対し、「面倒くさいから変えるのをやめよう」ではなく、いかに解きほぐしながら早く動かしていくかに焦点を当てるのがトランジション・マネジメントの重要なポイントです。