なぜネット上に「野良カウンセラー」が跋扈するのか――自称可能な肩書が生む、メンタルヘルスの危険性
誰もが名乗れる「心理カウンセラー」という肩書き
原田さんは、ネット上では、公認心理師や臨床心理士よりも、有象無象の「カウンセラー」のほうが圧倒的にアクセスしやすいことを課題に挙げる。 「悩んでいる人がどうやって相談しようかと思うとき、ネットで検索しますよね。私の大学にも相談サービスがありますけれども、そういったものよりも、お金をかけていて、きれいなサイトのほうが目立つでしょう。検索にも引っ掛かりやすくなっているでしょうし。われわれも宣伝の仕方などに限っては、逆に『野良カウンセラー』から学んでいかなきゃいけないところはあるかもしれません」 根本的な問題としては、「心理カウンセラー」を誰もが名乗れてしまうことにも問題はある。カウンセリング業務は、公認心理師や臨床心理士の「業務独占」ではないからだ。 「当然ですが、『公認心理師』という名称は、公認心理師しか名乗れません。ただ、公認心理師以外の名称を名乗ってカウンセリングをすることは誰でもできてしまうんです。法律上、業務の独占ができていないからです。医師法でも弁護士法でも業務独占があって、医師じゃない人が医行為をすると罰せられますし、弁護士じゃない人が弁護士業務を行うと罰せられます。しかし、公認心理師法では業務独占の規定がないのです。だから、今後カウンセリングが業務独占の対象となるようなら、質の担保にもなるし、カウンセリングを受ける人の保護にもつながると思います」 先行する事例として、原田さんはイギリスの取り組みを挙げる。今後、日本も資格のある専門家へのアクセスを高めるために、国家的な取り組みが必要だという。 「イギリスでも同じような問題を抱えていて、公的な資格のある人から効果的な心理療法を受けられるようにするために、国が300億円ぐらい費やしているんです。というのは、うつ病による国家の損失は2兆円とも3兆円とも言われる試算があるから。それをなくすために300億円はたいした額ではないわけです。日本もメンタルヘルスによる国家的な損失は非常に大きいわけです。4大疾病の中に精神疾患も加わって、5大疾病になった。その問題性を厚労省も認識しているのであれば、クオリティーの高いカウンセリングのサービスを受けやすくすることを、ぜひ国の事業としてやっていただきたいなと思います」
--- 原田隆之(はらだ・たかゆき) 筑波大学教授、東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は、臨床心理学、犯罪心理学、精神保健学。法務省、国連薬物犯罪事務所(UNODC)勤務などを経て現職。主な著書に『あなたもきっと依存症』(文春新書)、『子どもを虐待から守る科学』(金剛出版)、『痴漢外来:性犯罪と闘う科学』『サイコパスの真実』『入門 犯罪心理学』(いずれもちくま新書)、『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門』(金剛出版)。