なぜネット上に「野良カウンセラー」が跋扈するのか――自称可能な肩書が生む、メンタルヘルスの危険性
「野良カウンセラー」はアセスメント(評価)ができない
臨床心理士は、1988年に認定が開始された資格で、多くの公的施設でも資格要件とされている。大学院を修了しなければ取得できない資格でもある。また、公認心理師は2019年に認定が開始された新しい国家資格だ。 筑波大学などで公認心理師の育成に携わっている原田さんは、「臨床心理士、公認心理師のサービスを受ければ、一定の質が保証されている」と述べたうえで、公認心理師あるいは臨床心理士と「野良カウンセラー」の大きな違いは三つあると指摘する。 「一つは専門的な知識やスキルがあることです。公認心理師の場合、実習が450時間以上必要です。それに、話を聞くだけではなくて、相手が病気かどうか、どのような心理状態にあるかなどのアセスメント(評価)や、それに基づくさまざまな介入ができるなど、非常に幅広い専門的技能を持っていることが一番大きな違いですね。二つ目は倫理です。守秘義務、身体的接触の禁止、カウンセリング以外での個人的関係の禁止など、倫理に関しては厳しく指導されますし、公認心理師法には罰則の規定もあります。三つ目は研究です。卒業論文や修士論文を書いて、いろいろなアカデミックなトレーニングも受けます。『野良カウンセラー』にはこの三つともありません」 「われわれプロのカウンセラーは、相手に答えはあげないんです。『こうすればいいんですよ』『あなたの問題はこうなんですよ』と、こちらが答えを与えてしまうのは簡単なんだけど、そうではなくて相手がそれを自分で発見できるように上手に導いていくことが、カウンセリングの一番重要なポイントだし、非常に重要なプロセスじゃないかなと思います」 「野良カウンセラー」は、フロイトやユング、アドラーなどの心理学、あるいは認知行動療法(物事の受け取り方や行動パターンを修正して問題の解決を図る療法)などを独自に解釈して、つぎはぎの「教典」を作って他人に指導することもあるという。しかし、その意味は薄いと原田さんは指摘する。 「認知行動療法も、ちゃんとトレーニングを受けている人と受けていない人では、効果に明確な差が出てきてしまうんです。トレーニングを何百時間も受けているかどうかは、本人のスキルを磨いていくうえで非常に大事だし、ただ単に『ちょっと本を読みました』『数時間の研修を受けました』というだけで身につくほど生易しいものではありません」 もともと何らかの心理的問題を抱えていて「野良カウンセラー」のカウンセリングを受けた人が、自身も「野良カウンセラー」になることもある。しかも、公的資格でもないのに、数十万円もの受講費用が必要となるケースもあるという。どうしてそこまでしてカウンセリングをする側になりたがるのだろうか。 「いろいろな『野良カウンセラー』のプロフィールを見ると、『かつて私はうつ病で悩んで、このセラピーを受けてよくなりました』といった内容を書いていることが多い。やはり自分の中にコンプレックスやメンタルの問題があって、そこから今度は『先生』と呼ばれるような立場になって、自分のコンプレックスを癒やしたいっていう心理があるのだと思います。周りに『先生』と呼ばせて、自分の劣等感を癒やして、自尊心を守ろうとするんじゃないかと思いますね」