ココイチ 業態多様に個性尊重 つけ麺・ジンギスカンも
■来店者の声
愛知県一宮市の本社の社長室には、毎日、束になったはがきが運び込まれる。一枚一枚に書き込まれた来店者の声を読むのが社長の仕事だ。厳しい 叱責しっせき を含め1日1000枚を超えることもあり、1か月に2万通以上になるという。「社長の使命」でもあり、目を通すだけで毎日1時間を超える。 創業者の宗次徳二さん(76)が始め、代々引き継がれた。現社長の葛原守さん(57)は「自分たちが向かおうとしている方向が正しいのか、各店舗がどう対応しているのかを理解するには大事な作業」と話す。 創業から46年が過ぎ、新しい時代への対応と、社会的な責任が、重くのしかかる。2024年1月、「わくわくで未来をつくる」として、30年2月期までに連結営業利益を100億円と現在より倍増させる「長期ビジョン2030」の数値目標を発表した。10項目の重点的な取り組みを明示し、「柔軟な思考で変わっていく」(葛原社長)ことを示した。
■新たな段階
創業期・成長期を経て、壱番屋はこの十数年、新たな課題に直面し、臨機応変な対応を求められてきた。11年の東日本大震災ではカレーソースを生産する栃木県の工場が被災した。直営店の運営を停止しつつ、本部職員が応援に駆けつけて復旧に当たった。不測の事態への備えが、大きな経営課題となった。 2年後、カレーチェーンで事業規模が世界一と認められる。13年3月に「国内1201店舗で1週間のカレー販売数が、最多の151万4026食に達した」ことを示すギネス記録を取得したと発表した。15年12月にはハウス食品グループ本社の子会社となった。 質の向上にも取り組む。安心できる食材を確保するために、千葉県の工場でサラダに使うレタス類の生産に着手した。LED照明と養液で最適な生育環境を作り、450店舗に安定供給する体制を整えた。 こうした経験や環境変化、社会の要請を言葉で示したのが長期ビジョンだ。 今年10月に金沢市で開業した店舗は、初の環境配慮型で、木材を多用したつくりになっている。かつてココイチは効率的に設計された紋切り型の店舗が多かったが、個性的な内外装にも対応し始めた。