鎌倉暮らしの達人、建築家・石井秀樹さんがプロ目線で語る!鎌倉を訪れるなら絶対に立ち寄りたい場所ベスト5
光と影、そして緑をドラマチックかつ緻密に取り込んだ住宅建築の名手である建築家・石井秀樹さん。その魅惑的な建築に惹かれ、設計の依頼をする施主が後を絶ちません。そんな人気の建築家である石井さんは、2016年鎌倉雪ノ下に自邸を建築。そこで、在住する石井さんならではのおすすめスポットと、鎌倉という町の特性を紐解いていただきました。 【写真集】鎌倉散策のおすすめスポットは?鎌倉在住建築家の石井秀樹さんが案内!
鎌倉の変遷とその独特な地形
鎌倉時代の武家社会が街の成り立ちや骨格に大きな影響を与えている鎌倉。ところが実際は、鎌倉時代の建物はほとんど残っていません。室町時代を経て鎌倉は衰退していき、農業や漁業の村に。徳川家康が武家発祥の地として鎌倉を重視し復興させたことによって観光地として認知されていきます。 明治時代には神仏分離による廃仏毀釈により社寺が荒廃。その後は鉄道の開通と共に、改めて貴族や財界人などの観光地や保養地として再興していきます。関東大震災によって地震や津波による壊滅的な被害を受けるものの、震災復興事業として社寺を再建。観光地として認められたことにより第二次世界大戦の戦災を免れ、その後も文人や財界人の別荘地や観光地として現在の姿を残しています。 つまり、鎌倉という名前からイメージされる面影は歴史的なイメージによるものであって、実際には後々につくられた町だということです。そう聞くと鎌倉の魅力に疑問が生まれるかもしれませんが、鎌倉幕府の成り立ちにも由来する、その地形にこそ多くの人の心をつかむ理由があるのではないかと思います。 北東西は山に囲まれ7つの切通しからしか抜けられず、南には海が広がる地形は独特な空気をまとっています。鎌倉を鎌倉としているのはこの地形で、過去の歴史を受け継ぎながらも新たな表情を見せているのが最大の魅力。そのポイントを踏まえて、おすすめスポットを選定しました(石井秀樹さん)。
一条恵観山荘(いちじょうえかんさんそう)/鎌倉市浄明寺
後水尾天皇の弟である一条恵観が京都西加茂に建てた茶屋を昭和に移築したもの。建物と一緒に移築された庭石や枯山水が敷地内を流れる川を取り込んで再建されています。 武家の町の鎌倉に公家の茶屋が移築されている。これも鎌倉の地形や自然、歴史の記憶が相まった賜物。桂離宮や修学院離宮と同時期に建てられた山荘は、武家の文化では見られない雅な設えが各所に施されています。 庭園を散策するだけでも、かつての茶屋の風情を鎌倉で感じられる不思議な体験に(石井秀樹さん)。 鎌倉市浄明寺5-1-10