この夏、日本の宇宙開発の歩みを振り返る(1)
「報道部畑中デスクの独り言」(第381回) ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は日本の宇宙開発の歩みについて。
9月に入りました。猛暑に台風……特異な天候に見舞われた今年の夏でしたが、お住まいの地域はご無事だったでしょうか。一方でこの期間、日本の宇宙開発分野では様々な動きがありました。今回はシリーズで振り返っていきます。
8月5日、JAXA宇宙飛行士候補者、諏訪理さんと米田あゆさんの訓練風景が公開されました。東京の羽田空港近くにあるANAホールディングスの施設「Blue Base」。ここで2人はフライトシミュレータを使った訓練に臨みました。JAXAが基礎訓練を日本国内メインで行うのは25年ぶりということで、貴重な取材機会でもありました。
ブルースーツがすっかり板についた感じの諏訪さんと米田さんは、緊張の中にもリラックスした表情で、シミュレータに入っていきました。報道陣はガラス越しにその様子を見守りましたが、見られるのはシミュレータの出入りの場面のみ。内部は非公開でした。 今回の訓練は基礎訓練の一環で、航空機操縦による安全運航訓練も含まれます。東京と大阪、往復のフライトを行うという設定で、諏訪さんと米田さんが連携して訓練に臨みました。ただ、これは操縦そのものが主眼ではなく、訓練で生じるトラブルへの対応や、コミュニケーション能力の強化を図ったものです。
訓練が終わり、シミュレータから出た諏訪さんと米田さんは別室で教官と訓練の振り返りを行いました。今回のフライトは天候が悪い設定で、訓練とは言え、着陸時に滑走路が見えない状況は不安だったようです。2人は真剣な表情で教官の話を聞き入っていました。
JAXAが民間企業に訓練のパッケージを任せるというのは初めてだそうです。昨年11月にANAは日本人宇宙飛行士候補者を対象にした基礎訓練の実施企業に認定されました。ANAでは安全運航のために培ってきた訓練のノウハウを宇宙飛行士候補者の訓練に活かすことができないか……新たなビジネス拡大の意向がありました。 一方、宇宙産業活性化という昨今の情勢の中、JAXAでも民間企業のノウハウを取り入れて、より効率的な訓練をしたいという要望が内外からありました。ANAで行われる訓練が宇宙飛行士の作業に近いこともあり、お互いの意向が一致したというわけです。 ANA(全日本空輸)フライトオペレーションセンター訓練業務部の鈴木直也部長は、訓練の意義を強調しました。 「人間の行動特性であるとか、行動や振る舞い、考え方を強化するための訓練。JAXAが求めている訓練にかなっていると考えている」 また、各教官が諏訪さんと米田さんについて口を揃えるのは吸収力の高さです。 「自分のものとするとして適切にアウトプットしていく能力が高い。通常はパイロット、候補生、訓練生に提供している訓練だが。圧倒的に宇宙飛行士候補者の進捗が素晴らしい」 訓練を終えて、諏訪さんと米田さんも報道陣の取材に応じました。宇宙飛行士候補者決定からおよそ1年半。夢への階段を上っているという実感をかみしめているようです。 「ただ漠然とあこがれだったものから、より具体的に一個一個の科目を学んでいくことで、その道筋がより明確に見えてきた」(米田さん) 「だんだんと自分の中で具体的なイメージ、宇宙飛行士というのはこうなんだということや、こういうことをやっていかなくてはいけないということがわかってきて、現実味がどんどんわいてきている」(諏訪さん)