「沈香木画箱」に見入る招待客ら（奈良市で）＝浜井孝幸撮影

　奈良市の奈良国立博物館で25日開催された「第76回正倉院展」（主催・奈良国立博物館、特別協力・読売新聞社）の開会式、内覧会には、約1500人の招待客らが詰めかけた。即位1300年にあたる聖武天皇の遺愛の品など、57件の宝物に込められた天平文化の粋を、一足早く堪能した。 テープカットに臨む井上館長（右から2人目）ら（奈良市で）＝吉野拓也撮影

　内覧会に先立って行われた開会式では、井上洋一館長や宮内庁正倉院事務所の飯田剛彦所長ら4人がテープカットを行い、招待客らが展示室へ向かった。

　会場には寄せ木細工の箱「沈香木画箱（じんこうもくがのはこ）」など、精緻（せいち）な工芸技術の逸品が並んだ。春日大社の花山院弘匡（かさんのいんひろただ）宮司は、べっ甲細工の杖（つえ）「玳瑁八角杖（たいまいはっかくのつえ）」に注目し、「薄く加工された象牙など、ここまで素晴らしい細工は見たことがない」と絶賛した。

　仏前にささげる供物を盛る「漆彩絵花形皿（うるしさいえのはながたざら）」は、東大寺での聖武天皇一周忌斎会（さいえ）（757年）で使われた可能性がある。同寺の橋村公英別当は「花葉文が美しい。使われた当時のままの形が残り、何を載せたのだろうかと考えさせられる」と思いをはせた。

　朝鮮半島由来の楽器「新羅（しらぎ）琴（ごと）」を始め、外国との文化交流を示す品も並ぶ。韓国・国立慶州博物館の咸舜燮（ハムスンソプ）館長は「宝物は当時の原形を残し、どのように使われたかが想像できる。学術的価値のある最高級の文化品だ」と称賛した。

　映画監督の河瀬直美さんも駆けつけた。聖武天皇ゆかりの肘置き「紫地鳳形錦御軾（むらさきじおおとりがたにしきのおんしょく） 」について「よく見るとくぼみや表面のかすれがあり、使い込んだ証しが見られる。聖武天皇を身近に感じた」と語った。

　会場には再現模造の「瑠璃魚形（るりのうおがた）」と「瑠璃小尺（るりのしょうしゃく）」も展示されている。制作した岡山県倉敷市のガラス工芸作家で倉敷芸術科学大主任技術員の迫田岳臣さん（59）は「紅牙撥鏤尺（こうげばちるのしゃく）」の動植物の細かな描写に驚き、「後の時代の人たちがまねしたくなる、技法を解明したくなる気持ちがわかる。工芸家としてガラスでも挑戦してみたいという創作意欲が刺激された」と話した。