加山雄三「谷村君と何度も歌った『サライ』は、2022年の24時間テレビが最後に。あのとき、彼は歌って泣いていた」
2024年で87歳の加山雄三さん。俳優・歌手として活躍し、70代以降は愛船の火災や病に見舞われながらも、ニックネーム「若大将」そのままに人生を駆け抜けています。著書『俺は100歳まで生きると決めた』から一部を抜粋し、加山さんが語る幸福論をご紹介。今回は、故・谷村新司さんとのお別れについて。一緒に「サライ」を歌うのは、2022年の24時間テレビが最後になった―― 【書影】永遠の若大将が語る幸福論『俺は100歳まで生きると決めた』 * * * * * * * ◆谷村君と別れの「サライ」 2023年10月8日──。 谷村君がまさかこんなに早く帰らぬ人になるなんて。今も信じられない。身体が悪かったなんて、俺はまったく知らなかった。 彼と最後に歌ったのは2022年の24時間テレビだった。いつものようにフィナーレの前、二人だけで「サライ」を歌った後、彼に抱きしめられてね。びっくりしたよ。 あのときは、彼が俺のことを案じてくれているのだと思った。その少し前に脳梗塞をやって、小脳内出血もやって、ステージで歌うのをやめると決めていたからね。 それにしても変だった。谷村君の顔を見たら、涙を流してるんだ。えっ、泣くことはないだろ? 俺はまだまだ元気だぞ──と言ってやろうと思った。 すると、やさしい声で言うんだよ。 「さようなら」 おいおいおい。おおげさ過ぎないか、と思った。でも、大勢の人が観ている24時間テレビのファイナルのステージだろ。よしよしと抱きしめた。 あのとき、谷村君は俺の身を案じたのではなかったんだな。今思えば自分の身体の状態をわかっていたんだろう。それで、最後の「サライ」を歌って泣いていた。別れの抱擁だったんだ。それを俺は察してあげられなかった。 最後の「サライ」は忘れられない歌唱になった。
◆備前焼に挑戦 谷村君とはたくさんの時間を共有したよ。たくさんの感情も共有した。陶芸を教えてもらったのもいい思い出だ。 彼が遊びに来たとき、うちにある花瓶をしげしげと眺めているんだよ。いただきものの花瓶だった。 「この花瓶、すごいですよ」 谷村君が言ったんだ。でも、そのときの俺は花瓶の良し悪しなんて、さっぱり理解できない。 「そんなにいいものなの?」 彼の目利きに感心して聞いた。 「これは見事な備前焼です」 「なんでわかるんだ?」 「僕、備前焼をやっているんです」 「どこで?」 「岡山にいる先生のところです」 「ええー、俺も連れて行ってくれよ」 興味をそそられて備前まで出かけていった。俺はなんでも自分でやってみないと気が済まない性分だからね。 陶芸では先輩の谷村君と一緒に土をこねて、焼いて。素朴な陶土を窯で焼くと、見事な仕上がりになる。最初は、そりゃあ、苦労したよ。ところが、自分でもびっくりするくらい、ちゃんとできるようになったんだ。買ってくれる人までいるんで驚いた。