吉田鋼太郎「80代になってもまだカッコよくいようとしている自分の顔を見てみたい」
── 信念を持って進む過程で、俳優としての自分に自信を与えてくれるようなターニングポイントとなった作品や出会いはありますか? 吉田 41歳の時に『グリークス』(2000)という作品で初めて蜷川(幸雄)さんの舞台に立たせてもらい、そこから蜷川さんの舞台に少しずつ出られるようになった時にちょっと自信がつきました。蜷川さんが手がけるお芝居は集客力もすごくあって、劇場自体もそれまで僕がやっていた小劇場、中劇場とは違う1000人規模の大劇場です。 蜷川さんの舞台に出ることはひとつのステイタスというか、俳優として認められた証みたいなところがあったんです。 ── 蜷川さんの演出からはどのようなことを学びましたか? 吉田 いや、もうね……学んだというか、とにかく大変でしたね。蜷川さんはあらゆる意味で唯一無二の演出家で、稽古も俳優に対して何も指図せずに、「はい、やって」というふうに始まるんです。芝居はもちろん、舞台の上手から出るのか下手から出るのかすら俳優の創造性に任せて、「1回お前が考えてやれ」という。俳優にすべてを任されるわけですから、否が応でも自分で考える力が身につきましたよね(笑)。
── 戸惑ったり立ち尽くしてしまったらどうなるのですか? 吉田 「はい、交代」ということもありましたね。弱肉強食の世界です。そこを生き残るのは自信になりますし、やっぱり人間、苦しんだほうがいいのかなとも思いますよね。あの現場を経験したら、もうどんな過酷な現場でも耐えられますから。
相手がわかってくれるまで言葉を尽くして説明する
── ご自分が演出をする際も、その蜷川さんのやり方がヒントになったりするのでしょうか。 吉田 僕らはそれで鍛えられましたが、それは僕らの時代まで。やはり言葉を尽くして説明して、ちゃんと導いてあげることを省いてはいけないなと思っています。ただ一方で、自分が演出をする際に、やはり蜷川さんの薫陶を受けた役者たちは、1言えば10とか100、分かってくれるところがある。 でも、そこで蜷川さん頼りでいてはいけないのかなと最近思い始めていて、まったく畑が違う人や、違う場所で学んできた人たちとやることも必要なのかなと。1言えば10分かる役者とやるだけでなく、「それはどういう意味ですか?」と素朴に思う人たちに、きちんと説明をする能力もしっかり身に着けていけなきゃいけないというのは課題です。 今回の『ハムレット』の役者さんたちは、シェイクスピア・シリーズに出るのが初めての方も多いので、新しい風が吹くと言いますか、僕も演出家としてのハードルを上げて取り組もうかなと思っていますね。