【在職老齢年金改正後をシミュレーション】働くほどに年金が増える「二重の増額効果」 生涯で770万円も差がつく、改正後の“新しいシニア世代の働き方”
5年に一度の年金制度の見直しで、60歳以上で働きながら年金を受け取る人の「支給停止」をめぐるルール改正が行われようとしている。シニア世代の就業率が増えるなか注目されているのは、稼ぐと年金がカットされてしまう「在職老齢年金」制度の抜本的な見直しだ。 【表】在職老齢年金の改正で働くほどに年金が増える 月収別、年金受給増額のシミュレーション
現行の制度では、「給料+年金(厚生年金の報酬比例部分)」が月50万円を超えると、超過分の半分の年金が減額(支給停止)される。厚労省が社会保障審議会年金部会に提出した資料によると、今回の年金改正では、年金支給停止になる「給料+年金」の金額を現行の50万円から、62万円または71万円に引き上げる案、完全廃止してどれだけ稼いでも年金カットされない案の3つが提案されたのだ。 「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏は、今回の変更は「多くの人が65歳以降も年金支給停止を気にせずに稼げるようになり、給料と年金のトータルの収入も増える」と指摘する。 「年金減額の壁」による“働き控え”を気にせず働けるようになると、給料が増加することに加え、年金額が毎年少しずつ増えていくという「二重の増額」効果があることも見逃せない。
給料アップで上がった保険料は翌年の年金アップとして反映
厚生年金には2022年4月から「在職定時改定」という仕組みが導入され、働きながら年金を受給する人は、前年に支払った厚生年金保険料の分が翌年の年金額に反映されるようになった。 年金月額10万円(報酬比例部分)のケースを見てほしい。これまで年金減額されないように月給を39.5万円未満に抑えていた人は、改正後に月給51.5万円未満なら減額なしで働けるようになる。給料が増えれば天引きされる年金保険料も増えるが、65歳以上のサラリーマンは、上がった保険料は翌年の年金アップとして反映される。 「65歳で月給39万円あれば、在職定時改定によって1年ごとに年金は2万5740円(年額)ずつ加算されます。それが月収51万円まで稼ぐようになれば、支払う保険料が増える分、年金は3万3660円(年額)ずつ加算されていく。働き控えせずにどんどん働いた結果が、極めて速やかに年金受給額に反映されていくわけです」(北村氏) 月給39万円と月給51万円で1年働いた場合の増える年金額の違いは年額8000円程度で微々たる額に思えるが、65歳から70歳まで働けばその差額が積み重なっていき、さらに退職後もその差が生涯にわたって累積していく。 70歳でリタイアした後、80歳までに受け取る想定で比べると、受け取れる年金の総額の差は約51.4万円となる。当然ながら月給が39万円から51万円に増えれば、給料だけでも5年間で720万円の差がつくことになる。「二重の増額」の効果は770万円超となる計算だ。
注意すべき「給料のもらい方」
ただし、北村氏は「給料のもらい方」に注意する必要があるという。 「企業によっては雇用延長後もそれなりの給料で働く人には現役時代とは報酬体系を変え、月給を低く抑えてボーナスでまとめて払うというケースが増えています。そうすれば社員の保険料が低くなり、会社の負担分も減るからです。 社員にすれば、給料から天引きされる社会保険料が減って得するように見えますが、それだと在職定時改定で年金があまり増えない。病気やケガなど、もしもの時の傷病手当金の金額も月給で決まるから安くなる。給料の支払い調整はお勧めできません」 ※週刊ポスト2024年12月20日号