[MOM4948]鹿島ユースFW吉田湊海(1年)_ゴールは「生きている中で一番楽しいし、嬉しいし、本当に生きがい」。リーグトップスコアラーの1年生FWが土壇場での決勝点でエースの仕事完遂!
[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ] [11.24 プレミアリーグEAST第20節 鹿島ユース 2-1 前橋育英高 鹿島アントラーズ クラブハウスグラウンド] 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 ボールがゴールネットへ突き刺さったのを見届けると、観衆で埋まったスタンドの方へ全速力で走り出す。咆哮。絶叫。そして、舞う。エンブレムにキス。両手を広げる。やっぱりゴールを決めるって、最高だ。 「自分自身が生きている中で、あの瞬間が一番楽しいし、嬉しいし、本当に生きがいという感じです。あの景色は本当に気持ちいいですね」。 プレミアリーグEASTの得点ランキングトップに立つ、鹿島アントラーズユース(茨城)の背番号40。FW吉田湊海(1年=FC多摩ジュニアユース出身)が土壇場で叩き出した決勝ゴールが、チームに大きな、大きな勝点3をもたらした。 実は1か月半ぶりのメンバー入りだった。プレミアリーグEAST第20節。5位の前橋育英高(群馬)をホームで迎え撃つ一戦。鹿島ユースのメンバーリストには“交代選手”の上から6番目に吉田の名前が書き込まれる。 「ケガで自分が試合に出られない時は、サッカーもしたいし、プレミアにも出たいという感じでした」。10月5日に開催されたプレミア第17節の大宮アルディージャU18戦では、スタメンで登場してゴールも奪ったものの、直後に招集されていたU-16日本代表が臨むU17アジアカップは負傷のために辞退。しばらくの戦線離脱を強いられる。 もともとすべてに100パーセントで取り組む性格。もちろんそれは彼のストロングではあるが、この期間に改めて自身の日常を見つめ直す。「自分もこういうケガでの離脱は初めてだったので、そこから身体のことは1回見つめ直しましたし、練習量もちょっとやり過ぎていたところもあったので、そこは『自分で調整できるようにやらなきゃな』と感じました」。ユースへの加入以降、とにかく走り続けてきた緊張感を少しだけ解放しつつ、この日の試合へ準備を整えてきた。 鹿島ユースは前半2分にMF中川天蒼(2年)のゴールで先制したものの、少しずつ前橋育英のパスワークに押し込まれる時間が長くなり、守勢に回る展開を強いられながらも、1点をリードして迎えたハーフタイム。チームを率いる柳沢敦監督は決断する。 「しばらく戦列を離れていて、時間制限の中で復帰してきたところで、まだ90分の試合もやっていなかったので、復帰明けで45分は最長だったんですけど、彼の嗅覚、ゴール前にいるポジション、ボールを収めて周りの押し上げを待ったりとか、そういうプレーに期待して送り出しました」。左サイドで奮闘したMF小笠原聖真(3年)との交代で、40番が後半のピッチへ送り込まれる。 「後半の頭から入るというところで、ヤナさん(柳沢監督)からは攻撃で前でしっかりボールをキープして基点になるところと、守備ではハードワークしながら、ゴールも常に狙い続けろとは言われました」。前線からプレスに奔走しつつ、ボールが入れば力強いキープから基点を作り出すも、なかなか自身にチャンスは巡ってこない。チームは後半22分に同点弾を献上。1-1というスコアのまま、試合は最終盤へと突入していく。 41分。鹿島ユースは右サイドでFKを獲得する。キッカーはMF大貫琉偉(1年)。入ってくるコースはイメージできていた。ボールが自分のところへ導かれてくると信じて、吉田は中央の狙ったスポットへ走り込む。 「太陽があっち側にあって、見づらさはあったんですけど、大貫から自分のところに良いボールが来たので、合わせるだけという感じでした。『自分のところに来たらヘディングしてやろう』という想いはあって、ボールはマイナス気味に来たんですけど、そこからうまくひねって合わせられたので良かったです」。 ボールがゴールネットへ突き刺さったのを見届けると、観衆で埋まったスタンドの方へ全速力で走り出す。咆哮。絶叫。そして、舞う。エンブレムにキス。両手を広げる。やっぱりゴールを決めるって、最高だ。 「自分自身が生きている中で、あの瞬間が一番楽しいし、嬉しいし、本当に生きがいという感じです。あの景色は本当に気持ちいいですね」。 柳沢監督も「あそこで良く決めたなと思いますね」と称賛した1年生エースが、試合終盤に奪い切った勝ち越しゴールは、そのままこのゲームの決勝点に。「フォワードは点を獲ることが一番の大きな仕事だと思います」と言い切る吉田の表情にも、試合後には最高の笑顔が広がった。 日本一も経験したFC多摩ジュニアユース時代はボランチが主戦場だったが、今シーズンは基本的にストライカーとして起用される中で、ここまで世代有数のデイフェンダーが居並ぶプレミアリーグEASTで10ゴールを記録し、前橋育英のオノノジュ慶吏とリーグのトップスコアラーに並んでいる。 その陰には、やはり日本を代表するストライカーだった指揮官から受けている影響も小さくないようだ。「中学校時代に比べたらフォワードとしての動きは変わったと思います。ヤナさんは本当に一流の選手だったので、吸収する部分が本当に多いですし、フォワードの動き出しや受け方は勉強になっていて、そこはより意識するようになりました。普通はヤナさんに教われるなんてありえないことですし、ここのユースじゃなければ経験できないことなので、それは本当にありがたいと思っています」。 伝統あるクラブのアカデミーに身を投じて8か月。とにかくサッカーに集中できる日常に感謝の念を抱き続けてきた。「練習からいつも毎日楽しいですし、練習がない日も自主練したりしていて、本当にサッカーができることは幸せだと思います。自分はサッカーが人生の中で一番楽しいからやっているので、これからも常にその幸せを感じながらサッカーに取り組んでいきたいです」。 だからこそ、残された今シーズンで為すべきことは、誰よりも自分が一番よくわかっている。リーグ戦の2試合。その先に待っているプレミアリーグファイナル。最大で3試合を戦うことになる少し先の未来に向けた言葉が、力強く響く。 「自分たちはEASTだけではなくて、プレミアのファイナルで優勝するのが目標なので、そこに合わせてやっていきたいですし、自分は一生懸命守備をすることだったり、点を獲ることでしかチームに貢献できないと思っているので、そういうところをしっかり頑張っていきたいと思います」。 過ごしてきた時間の長さは関係ない。このクラブに脈々と流れている伝統は、もうその身体の中心に刻み込んでいる。「アントラーズらしさ」を体現し続けてきた16歳のアタッカー。吉田湊海は『生きがい』だと言い切る最高の瞬間を自ら引き寄せるために、これからもひたすらゴールを狙い続けていく。 (取材・文 土屋雅史)