深刻な不況、相次ぐ無差別襲撃…統制強める中国政府 異例の”白紙運動”再燃を警戒
中国で新型コロナウイルスを封じ込める厳格な「ゼロコロナ」政策に白い紙を掲げて抗議する「白紙運動」が起きてから26日で2年。運動は新疆ウイグル自治区ウルムチで起きた火災を発端に、市民が習近平国家主席の退陣を求める異例の事態に発展した。深刻な不況が続き、無差別に人を狙った重大事件が相次ぐ中、中国政府は体制批判の再燃を警戒し、言論統制と監視を強めている。 【写真】ウルムチ中心部にある火災現場の高層マンション 警察車両や警察官が配置され、緊張感が漂っていた 13日、ウルムチの空港に降り立つと、間もなく尾行が始まった。上下ともに黒っぽい服装の男たちが十数メートルの距離を保ち、つきまとう。スマートフォンのカメラ機能で終始こちらを撮影しているようだ。タクシーに乗り込むと複数の車両で追尾してきた。 尾行は確認できただけで10人以上が連携し、終日続いた。話しかけてくることはなかったが、あえて姿を見せることで記者の行動を制限しようとしているように思えた。 ウルムチ中心部にある火災現場の高層マンションに着くと、入り口付近には警察車両が配備され、警察官とみられる私服の男たちが目を光らせていた。近くの商店で漢族の女性に火災のことを尋ねると、こわばった表情で「そんな火災あった? 大昔の話じゃないの」とはぐらかされた。デモが起きたとされるウルムチ市政府庁舎そばのオフィス街でも複数の住民に声をかけたが、「知らない」と言葉少なだった。 白紙運動は1989年の天安門事件以来の大規模な抗議行動とされる。習指導部のゼロコロナ政策を撤回に追い込み、市民の「成功体験」となっただけに当局にとって今も敏感な問題だ。 上海で運動に参加した黄意誠さん(28)は「当時は外出も買い物もできず限界だった。習氏一人の考えでゼロコロナ政策を強行しているのは明らかで我慢できなかった」と振り返る。 黄さんはデモの現場で警察官に取り囲まれ、暴行を受けて顔から出血。一時拘束されたが、隙を見て逃げ出した。現在はドイツで留学生活を送りながら、デモでの警察の暴力などについて情報を発信している。 ただ国家安全当局は中国に残る両親を呼び出し、黄さんの言動が「国家政権転覆罪」に当たると脅迫。黄さん自身も知人を介して接触してきた中国系の人物が、のちに中国のスパイ活動容疑でドイツ検察に逮捕されたと知った。「帰国すれば確実に逮捕される。ドイツで仕事を探して働くしかない」と覚悟している。 中国ではコロナ禍収束後は経済が急回復するという期待に反し、景気低迷が続いている。広東省珠海や江蘇省無錫では多数の死者が出る無差別襲撃事件が発生。「社会に充満した不満が暴発している」との見方が強まっている。 中国政府は10月に各地で開かれたハロウィーンのイベントや大規模な夜間サイクリングといったイベントを規制するなど、市民生活への介入を強めている。黄さんは「市民と政府が対立を深めているのは明らかで深刻な状況だ。習政権が退陣しなければ、こうした状況は変わらない」と指摘する。 (ウルムチで伊藤完司)
白紙運動
2022年11月24日夜、新疆ウイグル自治区ウルムチで高層住宅火災が起き、子どもを含む10人が死亡。「ゼロコロナ」政策による居住区封鎖で消火活動が遅れ、被害が拡大したとの見方が広がり、不満が爆発した。追悼と抗議のデモが26日以降、上海や北京など各地に広がり、「PCR検査はもうたくさんだ。自由がほしい」「習近平は退陣せよ」などと公然と批判した。政府はデモの参加者を相次いで拘束して監視下に置き、一部の参加者は海外に逃れている。