「ミニ肝臓」「ミニ脳」を創造!…「認知症の予防にも⁉」iPS細胞に秘められた「莫大すぎる」可能性
人生100年時代。平均寿命が上がり続けている現代の日本では、そう遠くない未来に100歳まで生きることも当たり前になっているだろう。そんな時代にいつまで現役を続けられるのか? どんな老後の過ごし方が幸せなのか? 医療はどこまで発展しているのか? ノーベル賞学者と永世名人。1962年生まれの同い年の二人が、60代からの生き方や「死」について縦横に語り合った『還暦から始まる』(山中伸弥・谷川浩司著)より抜粋して、「老化研究の最先端」をお届けする。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『還暦から始まる』連載第5回 『認知症治療の「最前線」が凄すぎる…iPS細胞がアルツハイマー病に効く「驚愕の」理由』より続く
アルツハイマーの新たな対抗策
山中 アルツハイマー病の中で「家族性」はごくわずかです。それ以外の、遺伝とは関係のない「孤発性」のアルツハイマー病が圧倒的に多いんです。 家族性アルツハイマー病の原因遺伝子はわかっていますが、孤発性のアルツハイマー病もやはりなんらかの遺伝子が関係していると思われています。 その研究も進めていて、患者さんのiPS細胞からつくった大脳の細胞と、正常な人のiPS細胞からつくった大脳の細胞を比べると、部分的ですが違いがあります。その違いを抑えるような薬がないかを調べていくわけです。 原因は多くの遺伝子の組み合わせかもしれませんが、その辺がわかってくると、どの患者にどの薬を使うかを特定したり、発症のリスクが高い人にはあらかじめ投与する、といったことがなされるかもしれません。 谷川 そうすると、認知症の予防ということにもつながりますね。
ひとりひとりに適した治療薬を
山中 はい。高血圧もそうです。いま、治療薬はいっぱいあって、血圧が高い方はみなさん、飲んでいますけれども、本当にそれが必要なのか、誰がどの薬を使えばいいか、本当は一人ひとり薬の反応が違うはずです。 いま、医学の大きな流れはパーソナライズド・メディスン、個別化医療と言って、患者さんの体質や病気に関連している遺伝子を細かく調べたうえで、一人ひとりの体質や病気のタイプに合わせた治療です。 何千人という人間で薬の効果を全部確かめるのは手間も費用も大変です。それをiPS細胞で「ミニ肝臓」や「ミニ脳」をつくって、千人単位の反応を実験室で調べることができるようになっています。 そして、一人ひとりの方に合った、より効果の高い薬を選ぶことができるようになります。そういう個別化医療への応用が、もしかすると再生医療以上に大切になるのではないかと思っています。 そんなふうに、さまざまな病気に関して、これからどんどん研究が進んでいくでしょう。でも、まだまだこれからが本番というか、長い長い時間がかかります。 僕はよく「研究は短距離走ではなくてマラソンだ」と言うんですが、これに関しては超ウルトラマラソンみたいな感じですね。
山中 伸弥(京都大学iPS細胞研究所所長)/谷川 浩司(棋士)