【ニッポンの性】若者世代にセックスレスが増加している本当の理由。
30代までセックス未経験の男女が増えている理由。
もちろんレス増加の原因はピルの影響だけではない。「日本の性教育では妊娠がダメ、性病がダメという、性交渉がダメな悪いもの、という印象を植え付けるだけの内容になっている」と海老根院長は語る。「だから大人になっても性交渉に対して、どこか悪いことをしているような罪悪感を覚える人がたくさんいます。それは女性だけに限らず、男性も同じ。親がマスターベーションを叱ったり、隠すべきタブーだとするから性交渉が怖くて、自分ではできるけどパートナーとはできないという人が増えています」。 その結果、30過ぎくらいまで性交渉を経験しないまま過ごす人が男女ともに増加。さらに30代に入りそろそろ子どもが欲しいと思い始めたときも、女性側は男性から誘ってほしい思っていても、現代の男性は行動してくれないのだという。
海老名院長の話では、若い世代で男性側のレスの最多原因となるのは、ゲーム。不妊治療に訪れる夫婦でいちばん多いのが、ゲームのしすぎで性交渉ができないレスだというのだ。「男の人の身体って基本的には運動を好み、運動によって筋肉が鍛えられてテストステロンという男性ホルモンが作られる仕組みになっている。それが最近では、ゲームだけして運動をしないので性欲が湧かない。さらにはゲームばかりしていて、セックスする時間がない」。セックスするよりゲームの方が面白い、というわけ。これでは「生物としての力が弱まっている」と、海老根院長が嘆くのも無理はない。 男性側から積極的に行動しないのだとしたらセルフプレジャーに励む女性が増えているのかと思うと、そうでもない。「そこが欧米と日本との違いで、狩猟民族か農耕民族かのDNAの違い。日本人の場合、セックスがないならないで、面倒だからもういいや、となる。やっぱり皆さん、植物的になって来ているのではないでしょうか」(海老根院長)。
「女であることが邪魔」な世界観。
前述のピルの話に戻るが、情報化社会において皆が悪い情報ばかりをピックアップしてリスク回避をしたがる余り、性をコントロールしすぎた歪みが少子化問題に拍車をかけている。たしかにネットやSNSを見れば、女性には生理と妊娠があるから好きなように生きられないという、ネガティブな情報が目に入って来る。 「女性の高学歴化が進むと、女の部分は邪魔になってしまう。キャリアのためには妊娠や生理は足枷でしかないから、そのデメリットをいちばん小さくしましょうね、みたいな世界観がうっすらとあって。昔は生理が来たらお赤飯を炊いてお祝いしたのに、今や生理が来る前にピルを飲んで止めさせようとして、『女を謳歌しましょう』という話にはならないですよね」。 私自身、PMSの症状が重いときには「なぜ女ばかりがこんなにしんどい目に遭わないといけないのか。生理なんてなければいいのに」と思うこともある。けれど「人間の身体の機能にはそれぞれ意味がある。今の状態に進化してきたのには理由があるはずなので、あんまりそれをコントロールしてしまうと不自然なことが起こると個人的には思っています」という海老根院長の言葉通り、生殖機能のコントロールは、人類に新たな悩みを生み出す原因ともなっているのかもしれない。
●恋愛コラムニスト さかいもゆる 出版社勤務からフリーランスのファッションエディターとして独立。その後、アラフォーでバツイチになった経験から、恋愛や結婚における本当の幸せとは何かを考えるインタビュー読み物やコラムを多数の女性誌で執筆している。 ●海老根真由美さん 白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長。2013年に白金高輪に婦人科、産婦人科、助産師の外来を中心としたウィメンズクリニックを開院。これまでに3万5千人近くの女性患者たちの悩みを診察。女性の心と身体のトータルケアを目指したクリニック作りを目指している。 https://ebine-womens-clinic.com/
text: Moyuru Sakai