旭化成、カインズ、味の素…企業を成長させるリーダーはいかに「待つ」のか? 米ビジネススクールが徹底分析
『断固たる日本──企業を復活させるリーダーたち』(未邦訳)の著者である早稲田大学の池上重輔教授、そして米ウォートン・スクールのハービル・シン教授とマイケル・ユジーム教授は、日本の大企業のCEOや幹部たち100人以上にインタビューを実施し、成功の秘訣を尋ねた。 めざましい成長を遂げたビジネスリーダーたちのエピソードから浮かび上がる「持続可能な会社を創るリーダーシップ」とは?
長期の目標に短期の目標を組み合わせる
『断固たる日本──企業を復活させるリーダーたち』(未邦訳)のなかで、池上たちは次のように書いている。 「私たちが出会った強い意志を持つ日本のリーダーたちは、欧米に比べてより長期的な計画に集中しつつも、短期の目標設定を組み合わせていることがわかった。 同時に彼らは、投資家だけでなく顧客たちを重視している。一方で米国企業は、投資家によって支配されている。日本のリーダーたちは、リスクを恐れず若手の育成に力を入れ、機敏に指示を出す。自社の人材を見直すことで、個々の社員が才能を発揮できる場に配置され、会社により大きな利益が出るようになるのだ。 また、彼らは両利きのように器用で、あらゆるプランを同時にこなしている。ステークホルダーとの関係を維持し、短期で得られる利益と長期的な目標を管理し、そして企業を安定させつつも、臨機応変に対応しているのだ」 欧米をはじめとする海外企業のリーダーたちは、遠くの目標よりも目先の成果を重視する傾向にある。未来は予測不可能だし、会社としてはすぐに利益がほしいのだから、当然のことかもしれない。 しかし、きちんと秩序が整ってさえいれば、未来の目標を重視し慎重に行動するという日本企業のビジネススタイルこそ、のちに大きな利益を生むのだということがよくわかる。
旭化成やカインズに学ぶ「待ち方」とは
本書で紹介されるリーダーの1人に、旭化成株式会社の代表取締役会長、小堀秀毅がいる。化学製品や建材、繊維などを扱う大手総合化学メーカーである旭化成は、世界市場で活躍している。 2016年に代表取締役に就任した小堀は、成功を見込める10地域で売り上げを伸ばすという自身の計画が、1年や5年で達成できるのものではなく、10年はかかるものであることを強調した。小堀が見込んだ地域での売り上げシェアは現在35%だが、2030年までには倍の70%に増えると予想される。小堀は、このプランに長い時間が必要な理由をこう説明する。 「私の使命は、旭化成が100年の歴史を持つ企業だということを人々に伝えることです。そして、旭化成が次の100年も繁栄し続け、社会に貢献し続けられるよう、その土台を整えることです」 建材やペット用品、ガーデニング用品など、幅広い商品を扱う大手小売企業のカインズも、小堀と同じく、コストをかけてでも将来の目標達成を重視するビジネススタイルだ。 カインズは全国に200店舗をかまえ、従業員数は1万3000人以上にものぼる。同社は家族経営だが、2019年、血のつながらない高家正行をCEOに迎えた。高家は当初から、就任初年度は自社の利益を縮小することを堂々と宣言してみせた。 高家は、カインズ経営者一族と幹部に対し、従業員の育成にコストをかければ、のちに何倍もの利益になって返ってくると説明していたのだ。 カインズに長く勤めてきた幹部たちは、高家に、このままではCEOを外されてしまうと警告した。しかし高家は、「私が何年CEOでいられるかはわかりません。しかし、カインズがこの先も長く繁栄していけるかどうかは、私がどれだけ優れた社員をたくさん育てられるかにかかっています」と返した。 そして、その育成には5年が必要だということも、高家は付け加えた。こうして高家は、「できるだけ早く」目標を達成するため、行動を開始した。 高家はまず、昇進したいと望む有能な管理職の社員たちに注目した。「できる限り、次世代の優秀な人材たちに上位のポジションを与えたいと思っています」と、高家は語る。優秀な人材を昇進させることで「社員に権力を与えつつ、社員を訓練することもできる」というわけだ。
Jusuke J. J. Ikegami, Harbir Singh and Michael Useem