「え? そのペースで行くわけ?」駒大・大八木監督も驚愕…24年前の箱根駅伝“学生最強エース”との紫紺対決に挑んだ闘将ランナー「超無謀な大激走」
トップ・順大から28秒差のスタート…追う駒大
駒大9区の正仁が戸塚中継所で8区の武井拓麻から右手で襷をつかみとった時、トップを走る順大がスタートしてから28秒が経過していた。距離にして約150mの差だった。 しかもこれは、単なる28秒差ではなかった。前を行くのは順大の主将、4年生の高橋謙介だったからだ。日本中から陸上エリートが集結する順大にあって、2年から9区の区間記録を塗り替える走りを見せ、チームを優勝に導いた。3年時は「花の2区」を区間2位の好記録で快走。名実ともに、順大のエースであり、学生駅伝界のスターだった。 その点は正仁も潔く認めていた。 「謙介さんは当時、学生の中ではトップのレベル。自分より絶対上だと思っていた」 だが、そう認めつつも、正仁は気後れするどころか、「気持ちで引いたら追えなくなる」とむしろ闘志をかき立てられていた。 1万mのタイムでは正仁は謙介より37秒も遅かった。9区は戸塚から鶴見まで23kmの道のり。単純計算なら、追いつくどころか、逆に1分以上離されても不思議はなかった。 しかし正仁はロードレースになると人が変わったように力を発揮した。 「トラックが苦手というわけではないんでしょうけど、同じところをぐるぐる回るのが好きじゃないんです。何か、走れない。でもロードになったら負ける気がしなかった」 この年は、下馬評では順大が圧倒的に有利だと見られていた。順大はそこまで出雲、全日本の2大会を制し、91年の大東大以来、10年振りの3冠制覇がかかっていた。 往路は、順大がトップの中大と8秒差の2位、駒大は2分24秒差の4位。順大はほぼ予定通りだったのに対し、駒大は計算よりも随分遅れた。監督の大八木は、トップとの差は1分半から2分に留めたいと考えていたという。 「正直、これはしんどいなあ……というのはあった。でも、この年は復路の選手たちが気持ちを切り替えてやってくれてね」 駒大は7区の揖斐祐治、8区の武井が連続で区間賞を獲得。最大で3分以上あった順大との差を一気に28秒差まで縮め、爆発力を秘めた9区の正仁を「この流れに乗っていこう」と勢いづけた。 「周りの音とか一切、聞こえてなかったです。相当集中していたんだと思う。あの走りをもう一度やれと言われてもできないですから」
大八木監督も「正仁は途中で倒れるかも…」
正仁は、最初の1kmを2分30秒で通過する。「正仁は突っ込めるタイプ」と信頼していた大八木も、このペースには流石にたまげた。 「一か八か、勝負に出たんでしょうけど、え? そのペースで行くわけ? って」 大八木は、手の空いている選手に「正仁は途中で倒れるかもしれない」と声をかけ、できる限り沿道に応援に行かせた。 ◆ 振り返る必要などない――。逃げる高橋謙介がそう考えていた理由は3つあった。 <次回へつづく>
(「Number PLUS More」中村計 = 文)
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