インボイス、マイナンバーに対して、ろくにストやデモもしない日本人の末路…米国のいいなりの日本政府、政府のいいなりの国民
属国の身分を利用するか、そこから逃げ出すか
日本国民は属国の身分にすっかり慣れ切っているので、自国政権の正統性の根拠を第一に「アメリカから承認されていること」だと思い込んでいる。「国民のための政治を行っていること」ではないのだ。 アメリカに気に入られている政権であることが何よりも重要だと国民自身が思い込んでいるので、自公政権がずるずると続いている。 だから、自公政権が防衛増税を進めても、インボイス制度やマイナンバーカードなどで国民の負担を増大させても、国民はデモもストライキもしない。 それは国民自身が「政府というのは、国民の生活のために政策を実施するものではない」という倒錯に慣れ切ってしまっているからである。 「政府はアメリカと国内の鉄板支持層のほうを向いて、彼らの利益を計るために政治をしている」ということを国民は知っている。そして、「政治というのは、そういうものだ」と諦めている。 問題は「政治はこれからもまったく変わらない」という諦念が広がると、国民の中から「この不出来なシステムを主権国家としてのあるべき姿にどう生き返らせるか」よりも、「この不出来なシステムをどう利用するか」をまず考える人たちが出てくることである。 このシステムにはさまざまな「穴」がある。それを利用すれば、公権力を私的目的に用い、公共財を私財に付け替えることで自己利益を最大化することができる。 今の日本がろくでもない国であることは自分でもよくわかっている。でも、そのろくでもない国のシステムのさまざまな欠陥を利用すれば簡単に自己利益を増すことができる。それなら、システムを復元するよりも、システムの「穴」を利用するほうがいい──。 そして、彼らはシステムを「活用(hack)」する。死にかけた獣に食らいつくハイエナのように。彼らはこの獣がまた甦って立ち上がることをまったく望んでいない。できるだけ長く死にかけたままでいることが彼らの利益を最大化するからである。 現状では、そういう人たちが政権周りに集まり、メディアで世論を導いている。 一方で、それとは違う考え方をする人たちもいる。このシステムの内側で生きることを止めて、「システムの外」に出ようとする人たちである。 地方移住者や海外移住者はその一つの現れである。彼らももうこのシステムを変えることはできないと諦めている。そして、システムの外に「逃げ出す(run)」ことを選んだのである。 私たちは今、二者択一を迫られている。hack or run。 その選択が令和日本の、特に若者に突きつけられているのだ。そして、ここには「システムの内側に踏みとどまって、システムをよりよきものに補正する」という選択肢だけが欠落している。 写真/shutterstock
---------- 内田樹(うちだ たつる) 1950年生まれ。思想家、武道家、神戸女学院大学名誉教授、凱風館館長。著書に『ためらいの倫理学』(角川文庫)、『死と身体』(医学書院)、『街場のアメリカ論』(NTT出版)、『街場の中国論』(ミシマ社)、『日本辺境論』(新潮新書)、『街場の天皇論』(東洋経済新報社)、『レヴィナスの時間論』(新教出版社)、『コロナ後の世界』(文藝春秋)、『そのうちなんとかなるだろう』(マガジンハウス)など多数。 ----------
内田樹