Keishi Tanaka「月と眠る」#9 山でのテント泊に想いをはせて
Keishi Tanaka「月と眠る」#9 山でのテント泊に想いをはせて
ランドネ本誌で連載を続けるミュージシャンのKeishi Tanakaさん。2019年春から、連載のシーズン2として「月と眠る」をスタート。ここでは誌面には載らなかった当日のようすを、本人の言葉と写真でお届けします。 Keishi Tanakaさんの連載が掲載されている最新号は、こちら↓↓ >>>「ランドネNo。113 9月号」。 初めて山に登ったのは約10年前。八か岳の赤岳山頂で雲海を見たその日から、年に数回ではあるが山小屋泊の登山を楽しんできた。そして、数年前からはテント泊の準備も始めていて、装備も揃った今年をテント泊スタートの年にしようと思っていたところに、例のウイルスが静かにやってきて、依然として猛威をふるっている。 今回は山のテント泊装備で、少し高台にある「ほったらかしキャンプ場」で一泊することにした。最小限の装備で、どこまで楽しめるか。実際に山でテント泊をする前に、図らずとも良い予行練習となった。 山のテント泊装備は、山小屋泊とも、キャンプ場でのソロキャンプとも違うアイテムがある。ランドネ本誌でも掲載された写真を、もう少し詳しく見ていこうと思う。 登山で必ず必要なレインウエアは、マウンテンイクィップメントのロングタイプ。レインパンツも用意しているが、多少の雨であればジャケット一枚で充分なところがポイント。バックパックのレインカバーも携帯し、雨対策は万全。 テントはあとで詳しく写真を載せるが、スナグパックのスコーピオン2をチョイス。重量は2。6kgあるので、登山用には少し重たく感じるが、キャンプでの併用を考えて購入したテントで、とても気に入っている。寝袋はモンベルのダウンハガー800。寒がりなので定番の#3ではなく#2を使っている。マットはサーマレストのレギュラーサイズ。このあたりはあえての定番。 クッカーはスノーピークのヤエンクッカー1000。クッカーはいくつか持っているが、フライパンのサイズと、浅型の鍋が気に入っていて、ひとつ持っていくなら、いまはこれの気分。そこに、プリムスのワンバーナーとオピネルのナイフ、今回のために購入したモンベルのウォーターパックを加えれば、とりあえず食事はなんとかなるだろう。 最後に食材。ここが一番キャンプと異なるところかもしれない。荷物を最小限にするためには献立を具体的に決めておく必要がある。「一応持っていこうか」というものはなるべくないほうが良い。夕食と朝食、行動食などをイメージして、密閉式ビニール袋を使い食材をまとめておくことで、山で出るゴミも減らすことができる。山でのテント泊は初めてとはいえ、登山は何度もしているので、このあたりはぜひマネしていただきたい(ドヤ顔! )。 すべてをきれいにパッキングし、準備万端になったバックパックがこちら。我ながら、良い見た目だ。 そう思ったのも束の間、これを編集部の担当者に見せたところ、しっかりとした苦笑いをもらい、そのときの僕はというと、さっきまでのドヤ顔をバレないように真顔に戻したのだった。 登山の基本として、あまりバックパックの外付けはおすすめできない。枝が引っかかったり、思わぬ怪我につながったりするからだ。わかってはいた。わかってはいたけど、黄色のサイドバッグなんかはちょっと見せたい気持ちがおさえきれなかったのだ。そんな僕の気持ちに「わかりますけどねー」と笑顔で言いながら、その担当者はやり直しを僕に告げたのだった。 試行錯誤をくり返し完成したバックパックを背負い、キャンプ場の周りを探索。問題はなさそうだが、やはり実際に山に登ってみないと、こればかりはわからないというのが正直なところ。テント泊に限らず、体力に自信がない人は、可能な限りバックパックを軽くしておくことをおすすめする。 さあ、いよいよテントを張る。テント自体は最近のキャンプで使っているものだし、そもそもソロテントなので、その張り方はかなり簡単だ。写真を多めに載せておくので、パラパラ漫画的に楽しんでほしい。 という感じで、テント設営終了。ちなみに、3枚目でほぼ完成しているというツッコミは受け付けていない。それくらい簡単ということだ。前室の入口は真ん中を開けるほか、上記の写真のように横側を開けることもでき、正面からの雨の吹き込みを防ぐことができる。 コーヒーを淹れるにせよ、料理を始めるにせよ、とにかく火は重要。いまからバーナーの購入を検討している人には、少しくらい値が張っても頼りになるヤツをおすすめしたい。到着してすぐにビールを飲み始めているため、つまみを作ることにした。 焼いたシイタケをしょう油で食べようと思ったが、目に入った食材を上に乗せてみたら謎の料理ができ上がった。 マズいはずがない。外でシイタケを焼いて食べてる時点でウマいのだから、そこから先は自己満足の世界。「こんなんやってるよ、俺」を楽しむ世界だと思っている。おしゃれなキャンプも良いけれど、こういう無骨なキャンプもあるってこと。 ほろ酔いで勢いに乗った僕は、ここで一気に予定していた海鮮焼ビーフンを作り始める。ケンミンの焼ビーフンは山で使えるというウワサを聞き、家ではあまり食べることのないビーフンに挑戦。ホタテの缶詰を汁ごと入れ、カニカマで海鮮感を出した。 大満足の夕食となった。しっかりとして手の込んだキャンプ飯を作るのはもちろん楽しいが、少しの食材でいかに楽をしておいしいごはんを作るかを考るのも楽しい。それを楽しめるかどうかが、山のテント泊の一歩目を踏み出せるかの判断基準になるのかもしれない。 パラパラと降っていた雨も、夜にはいったん上がり、街の夜景を幻想的に見せてくれた。この場所で眠ることを実感し、なんだかとても特別な夜に感じた。このコロナ禍においての、アウトドアの可能性。テントの中でそんなことを考えていたはずなのに、気がついたらすぐに眠っていた。 キャンプだろうが山のテント泊だろうが、雨が降っていないなら寝袋を乾かしておくと、帰宅してからの作業がひとつ減る。 山ではゴミを捨てられないので、なるべく食材を使い切りたい。夜の残り物を使ってスープを作る。固形のコンソメと塩コショウで適当に味付けしたものだが、朝のスープは体に染みわたる。きっと山ではこの3倍はありがたく感じることだろう。 コンビーフが余っていたので、スクランブルエッグと一緒にコッペパンに挟んで、盛岡の「福田パン」インスパイアの朝食を作ってみた。盛岡では知らない人がいないであろうパン屋の味にそっくり……には到底ならなかったが、こんな遊びも取り入れられたら、簡単なサンドウィッチも楽しい朝食になる。 テントや寝袋をしまい、受付にチェックアウトを伝えに行くと、スタッフさんが今度オープンするという高台のカフェを案内してくれた。そこからさっきまでいたテントサイトやその先の街並み、そして遠くの山々を眺めながら、ぼんやりと考えていたことがある。アウトドアが好きなミュージシャンだからできること。 もう少しまとまったらまたお知らせしますね。