ナイーブな日本人が参考にすべき、起業家教育の名門・バブソン大学のポジティブすぎる「カルチャー」
近年注目が集まっているアントレプレナーシップ。「起業家精神」と訳され、高い創造意欲とリスクを恐れぬ姿勢を特徴とするこの考え方は、起業を志す人々のみならず、刻一刻と変化する現代社会を生きるすべてのビジネスパーソンにとって有益な道標である。 【漫画】頑張っても結果が出ない…「仕事のできない残念な人」が陥るNG習慣 本連載では、米国の起業家教育ナンバーワン大学で現在も教鞭をとる著者が思考と経験を綴った『バブソン大学で教えている世界一のアントレプレナーシップ』(山川恭弘著)より抜粋して、ビジネスパーソンに”必携”の思考法をお届けする。 『バブソン大学で教えている世界一のアントレプレナーシップ』連載第15回 『日本は「世界優しさランキング」堂々の最下位...日本人に起業家が少ない衝撃的理由を米国大学講師が考察』より続く
起業する「目的」とは
ビジネスに夢中になるのは当たり前です。それに加えて、なんのために働くのか、事業をするのか。それで誰が幸せになるのか。そこをとても大事に考えるようになりました。 大学で教える学生にもワークショップで出会う人たちにも、できれば起業に挑戦してほしいと願っています。でもそれは手段であって、目的ではないのです。目的は「誰かを幸せにし、そして自分も幸せになること」です。 ハンディキャップを持つ人とどう向き合うかにもそのヒントはあります。 目が不自由な方を街で見かけ、困っている様子だったらどうするのがいいのか。 「大丈夫ですか?」という声掛けは避けたほうがいいそうです。誰でもそう聞かれたら「大丈夫です」と応えてしまいます。 だから「何かお困りですか」「お手伝いしましょうか」とお声掛けするとよいそうです。また、前から手を引くのではなく、相手の隣に立ち、自分の肘を持ってもらい、ともに歩いていくのがもっともいいと聞きました。
まず心を動かそう
これは若き起業家との向き合い方にも似ています。 こうすればいい、ああすればいい、こうすると失敗する、と前から声をかけ、指導するのではなく、隣に立ち、同じ目線で前を向いて、アドバイスをしていく。自分で歩いていくのを少しだけ助ける。それがいいのだと感じています。 日本人は失敗を恐れ、行動するのに躊躇するナイーブな人たちです。だから、同じ立場に立って、少し背中を押してあげる。そうすれば、勝手に、着実に、前に進んでいく力があります。 2023年7月から1年間、認定NPO法人国連WFP協会(横浜市)は、公益社団法人ACジャパンの2023年度公共広告支援キャンペーンによる広告として、「命懸けの行列」という広告キャンペーンを実施しています。 世界には、飢餓に苦しむ8億人が食糧をもらうための行列を作っている。 こういう内容です。私の知人はこのCMについて、次のように言いました。 「世界の飢餓問題を表現する点ではとてもわかりやすい。8億人の行列というインパクトもある。けれど、スケールが大きすぎて、だから自分が何かをしようという発想にたどり着けない。【自分ごと】にならない」 たしかにそうかもしれません。8億人の飢餓を救えるイメージを抱ける人はとても少ないでしょう。いま世界で重視されているSDGsにせよ、たしかに大切な問題だとは理解できても、それを自分ごととして、自分に取り組めることとして認識できるかどうかは難しい問題です。 ならば私は、8億人の挑戦者を世に送り出したい。それなら、きっと世界を変えられる。目に見える誰かの痛みを感じたら、自分ならどうできるかを考え、行動できる人の背中を押し、伴走し続けたい。行動の仕方がわからない人にはその方法を、怖くてためらう人には少しの手助けを、それでも迷う人には背中を押したい。 行動することで世界は変わるのです。挑戦することで自己理解を深め、夢を実現することができる。伝える力が育まれる。その手に何も持っていなくても、夢とそれを実現したいと思う行動力があれば、なんだってできる。それがバブソン大学のカルチャーです。 いま、日本はスタートアップ支援に力を入れています。でもそれは「支援」です。支援は「行動する者」にのみ与えられるもの。行動なくして支援はありません。
山川 恭弘