太陽100万年分のエネルギーを0.01秒で放出、超レアな爆発現象を観測、科学者大興奮
「マグネターの巨大フレア」、高難度な銀河系外での検出
2023年11月15日、欧州宇宙機関(ESA)のガンマ線観測衛星インテグラルが、巨大なガンマ線バーストを捉えた。この爆発現象は、私たちの銀河系の外にある「マグネター」から発生した巨大フレアという、極めて珍しい現象によるものだとする論文が、2024年4月24日付けで学術誌「ネイチャー」に発表された。 ギャラリー:科学者さえも息をのむ、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の画像9点 バーストの持続時間はわずか0.1秒だったが、すぐに世界中の天文学者に警報が発せられた。天文学者たちはガンマ線の発生源を突き止めようと大急ぎで観測機器を向けたが、その後の展開は彼らの予想とは違っていた。 深宇宙からやってくるガンマ線バーストは途方もなく明るい高エネルギージェットで、時折、地球に届くものがある。天文学者たちは1960年代からガンマ線バーストを検出していて、今回もまた、宇宙のはるか彼方で2つの中性子星が衝突して放出されたものだろうと考えていた。 中性子星は死んだ恒星の核で、信じられないほど密度が高い。そんな中性子星どうしが衝突すれば大爆発となり、最初にガンマ線などが放出され、重力波がそれに続く。 「通常のガンマ線バーストだったら、いわゆる『残光(アフターグロー)』が見えるはずです」とイタリア、ミラノ国立天体物理学研究所の研究者であるサンドロ・メレゲッティ氏は言う。「短時間のガンマ線バーストの後、X線、可視光、電波の放射が数時間から数日間にわたって続くのです」 けれども今回、残光は見えなかった。
50年間にわずか3回の現象
残光のX線が観測されなかったことから、メレゲッティ氏らは、今回のガンマ線バーストの発生源はマグネターという種類の中性子星から発生した巨大フレアなのではないかと考えた。マグネターからの巨大フレアは、宇宙で知られている中でも特に珍しく、最も強力な爆発現象の一つだ。 中性子星は巨大な恒星が崩壊してできる天体で、小さな都市ほどの大きさしかないにもかかわらず、質量は太陽と同程度だ。そして、強力な磁場を持つ。マグネターは、通常の中性子星のさらに数千倍という非常に強力な磁場を持っているが、マグネターができる詳細なしくみはまだ解明されていない。 「マグネターは磁場の減衰をエネルギー源にします」とメレゲッティ氏は言う。「磁場の減衰は膨大な熱を発生させ、高温のマグネターから巨大フレアを放出させます」 私たちの太陽から発生するフレアは強力で、数十億トンのプラズマが放出されることもあるが、マグネターの巨大フレアに比べれば微々たるものだ。マグネターの巨大フレアは、太陽が100万年かけて放出するのと同じ量のエネルギーをわずか0.01秒で放出する。 米ルイジアナ州立大学の天体物理学助教であるエリック・バーンズ氏は今回の研究には参加していないが、「中性子星は宇宙で最も密度の高い物質です」と説明する。「マグネターは、極端に密度が高いおかげで、信じられないほど強力な磁場を持つことができるのです。密度がここまで高くなければ、その磁場によって引き裂かれてしまうでしょう」 こうした特異な条件のせいで、マグネターの存在や、その巨大フレアの発生はさらに珍しいものになる。メレゲッティ氏によると、ガンマ線バーストはおよそ1カ月に1回のペースで検出されているが、銀河系と近傍の大マゼラン雲で、マグネターからの巨大フレアは過去50年間に3回しか検出されていないという。 銀河系の外からくる巨大フレアの検出はさらに困難だ。検出器を適切な方向に向けたうえで、他の発生源によるガンマ線バーストと区別できなければならないからだ。 メレゲッティ氏らは、今回それをやってのけた。