北陸新幹線の延伸、「小浜ルート反対」でも5兆円の投資は本当に妥当なのか?
5兆円投資の是非
この辺りのわかりやすい解説は、経済評論家・ムギタロー氏による記事「「税は財源じゃない?」 100人の島に例えて解説」(東洋経済オンライン、2023年8月18日配信)を参照するとよい。この記事では、 「最初の段階で、「さあ、今年度の予算が欲しいから、税収だ!円を渡せ」といわれたら、どうでしょうか?もちろん渡せません。誰も円を持っていないからです。だからまず「円を作る」のが先です」 と説明されている。さらに、 「誰かの負債は誰かの資産」 というのが世の常であり、国が抱える負債はすべて国民や民間の資産になる。国家全体のバランスシート上では、これらは均衡するものだ。それでも「そんなに借金が増えて大丈夫なのか」と心配する人は、「外国格付け会社宛意見書要旨」と検索して、財務省の同名のページを見てほしい。そこには 「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」 と書かれているので、安心してほしい。国債残高を 「国民の借金、増えたら財政破綻」 と繰り返し伝えている財務省が、実はひそかに財政破綻を否定しているのだ。ただし、西田氏はこの後、さらに続ける。 「ただしいくらでも国債発行していいというつもりはない。例えば10年で1000兆円なんてペースで発行したら、それはとんでもないインフレになる。予算消化のために物価や人件費が高騰してしまう。だからそこまでしろとはいわないが、今、国内総生産(GDP)が530兆円くらいだからインフレ率2~3%を目安に毎年10兆円ほど発行額を増やす。当然ながらそれなりのインフレになるが、でもみんなそれを望んでいるでしょう?ところがみんな国会議員は私が出している本をお配りしても読みもしないで「何か西田君がいう話は、借金をどんどんして税金も無しでいいって事になるのではないか」といわれますが、私は全くそんなことをいっていないのです。税金は当然必要ですが、曲解をして、全く読まないまま、新聞にそのように書いてあった。MMT、あれは極論だなんて話をしてしまうのが、一番問題なのです」 この件については「国債発行 供給能力」と検索すると、れいわ新選組の「財源は?」ページに詳しい解説がある。要するに、生産供給能力の限界内であれば貨幣を刷って供給しても問題ないということだ。れいわ新選組によれば、年に100兆円単位で国債を発行してもインフレ率は約2%になるという。 この生産供給能力を考えると、結局は労働力という 「無」 から生まれる財である。工場で使う機械を作るのも人間だし、鉱物資源や食料資源を採掘するのも全て、最終的には労働者の力に対してお金を払っていることになる。 もちろん、労働者は食事をしてエネルギーを得ているので「無から生まれる」という反論があるかもしれない。しかし、漁師が魚を取るために海に札束を投げ込むわけではない。結局のところ、すべては労働力への支払いで成り立っているのだ。 この記事も、筆者が無から生み出しているものである。つまり、労働力という無から生まれる財に対する支払いのために、無からお金を生み出すことが何が悪いのだろうか。国債発行を完全に止めるなら、 「1億総プー太郎社会」 にでもしない限り、無理な話だと思う。ともあれ、 「国債発行額の限界 = 労働力」 と考えるなら、毎年生み出される労働価値の範囲内で国債残高を増やしても問題ない。しかし、だからといって小浜ルートに5兆円をかける理由にはならないのではないか。 今の人手不足の状況で、たった140kmの新幹線に四半世紀もかけて5兆円分の資材や労働力を投入するのが正しいのか疑問だ。金の問題ではなく、ここを論点にすべきだと思う。だったら、5兆円を刷れるのなら、その分の生産資源を本土で唯一新幹線がない四国などにも分けるべきだろう。小浜ルートの是非は、その観点で議論するのが適切であり、5兆円をかけるかどうかで判断するのは違うと筆者は考える。 また、小浜ルートは25年の工期が必要で、米原ルートは環境アセスを含め15年で完成するなら、その差分の10年間の機会損失やリダンダンシー機能の欠如についても重要な考慮が必要だ。