2025年 話題の展覧会をピックアップ②【日本美術編】
2025年は大阪・関西万国博覧会開催の年。これを機に、国宝をはじめ日本が世界に誇る美術品の数々を紹介する展覧会が関西を中心に多数開催! ほかにも若冲&応挙の新発見作品を公開する企画や、NHK大河ドラマの主人公、蔦重こと蔦屋重三郎にフォーカスした展覧会も。日本美術への注目度がますます高まる年になりそうです。 【全ての画像】2025年 話題の展覧会【日本美術編】 ※各展覧会の会期等は変更になる可能性があります。詳細は各展覧会の公式HPなどでご確認下さい。 2021年より大規模改修工事のため休館し、2024年11月より一部開館していた横浜美術館が、満を持して全館オープン。リニューアル後の活動理念の柱となる「多様性」の観点のもとに開催される『横浜美術館リニューアルオープン記念展 おかえり、ヨコハマ』(2月8日~6月2日)は、タイトルのとおり「横浜」をキーワードに、さまざまな視点で横浜の歴史を深堀りしていくもの。マグリットやセザンヌ、ピカソなど美術館が所蔵する珠玉のコレクションとともに、横浜市内の博物館や資料館の作品、資料も合わせて展示。横浜の奥深さをさまざまな視点から楽しむことができる。子どもも楽しめるコーナーを設置し、アーティスト、檜皮一彦に制作を委嘱した新作も公開されるなど仕掛けも盛りだくさん。 室町幕府三代将軍・足利義満が永徳2年(1382)に発願し、明徳3年(1392)に創建された禅宗の古刹、相国寺。同寺院には室町時代の御用絵師であり画僧であった如拙と周文が属し、室町水墨画を確立した。その二人を師と仰ぐ雪舟は、若き日を相国寺で過ごし、感性を育んだとされている。また、江戸時代に入ると、相国寺は奇想の画家、伊藤若冲をバックアップもしていた。同寺院は長い歴史のなかで数多くの芸術家を育ててきたのだ。東京藝術大学大学美術館で開催される『相国寺展―金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史』(3月29日~5月25日)は京都の地において文化の一大拠点となった相国寺の美の歴史を堪能できる展覧会。国宝や重要文化財も40件以上展示される。 2025年は大阪・関西万博の開催年。これを記念し、関西では豪華な展覧会が続々と開催される。京都国立博物館で開催される大阪・関西万博開催記念 特別展『日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―』(4月19日~6月15日)は、「異文化交流」をテーマに日本美術史そのものを見つめる展覧会。ヨーロッパでジャポニスムのきっかけを作った葛飾北斎の《富嶽三十六景 神奈川沖浪裏》、ヨーロッパでも早くから高く評価されていた琳派の祖である俵屋宗達の国宝《風神雷神図屏風》をはじめ、朝鮮半島が源流の銅鐸や、唐から持ち帰られた経典を守る蒔絵の箱など弥生・古墳時代から明治期までの絵画や彫刻、書跡に工芸品など約200件の文化財が並ぶ。日本だけでなく、それぞれの国の文化や人々にまで思いを馳せられる展覧会だ。 2025年は万博イヤーであるだけでなく、奈良国立博物館の開館130周年の年でもある。これを記念して開催される奈良国立博物館開館130年記念特別展『超 国宝―祈りのかがやき―』(4月19日~6月15日)は、奈良博の開館以来はじめてという、大規模な国宝展。奈良・中宮寺につたわる国宝《菩薩半跏像(伝如意輪観音)》や、同じく奈良の法隆寺に伝わる国宝《観音菩薩立像(百済観音)》をはじめ、同館や奈良に関わりの深い国宝約110件、重要文化財約20件を含む約140件の仏教・神道美術を展示する。時代を「超」えて愛される作品を、奈良を訪れて見ていこう。 大阪市立美術館で開催される『日本国宝展』(4月26日~6月15日)は、大阪で開催される初めての国宝展。参考出品を除く展示作品、約130件がすべて国宝という豪華な展覧会だ。雪舟の《四季山水図巻(山水長巻)》や尾形光琳《燕子花図屏風》や、伊藤若冲《動植綵絵 群鶏図》など教科書にも掲載される作品をはじめ、縄文から江戸時代に至るまで、幅広いジャンルの作品が展示される。ゆえに、日本美術に馴染みのない人、海外からの旅行客にもわかりやすく、楽しい展覧会になることは確実。なお、会場となる大阪市立美術館は現在大規模改修工事中で、2025年3月1日(土) にリニューアルオープン予定。新しい大阪市立美術館も合わせて見にいきたい。※会期中展示替えあり 東京国立博物館の特別展『蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児』(4月22日~6月15日)は、2025年の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)では横浜流星が演じる主人公、蔦重こと蔦屋重三郎に焦点を当てた展覧会。江戸時代後期に版元として一世を風靡し、吉原のガイドブックや、街の美人たちの錦絵、黄表紙や洒落本、狂歌集などを次々に出版した蔦重。彼は喜多川歌麿や東洲斎写楽を世に送り出したことでも知られている。同展は様々な世界を縦横無尽に駆け抜け、江戸の出版文化を盛り上げた蔦重が手掛けた様々なコンテンツを、作品のみならず空間や映像で紹介し、江戸文化そのものにも迫っていく。蔦重を取り巻く華やかな人間関係も知ることができる、楽しい展覧会だ。※会期中展示替えあり 現在は大人気の画家、伊藤若冲は2000年に京都国立博物館で展覧会が開催される前は「知る人ぞ知る」存在だった。日本には、若冲のようにきっかけさえあれば大ブームになるような可能性を秘めた芸術家たちが数多く存在している。大阪中之島美術館で開催される『日本美術の鉱脈展 未来の国宝を探せ!』(6月21日~8月31日)は、そんな知られざる作家たちを掘り起こし、検証していく展覧会。同展監修者で美術史家の明治学院大学教授、山下裕二が縄文時代から昭和にかけて、「鉱脈」をじっくりと掘り起こしていく。先日、新発見された円山応挙と伊藤若冲の合作作品も初公開される。 乳白色の肌を持つ女性像で一斉を風靡した画家、藤田嗣治は複数のカメラを用いて生涯に渡り数千点におよぶ写真を残していた。世界中を旅し、そして暮らしていた藤田はパリはもちろん、ニューヨークやラテンアメリカなど、さまざまな場所で写真を撮影し、その土地の空気だけでなく、彼自身の心情も映し出していた。東京ステーションギャラリーで開催される『藤田嗣治 絵画と写真』(7月5日~8月31日)では、藤田の写真にフォーカスし、絵画作品と写真との関係を検証していく。また、絵画作品と同じく、人の心を惹きつける藤田の写真作品や、被写体としての藤田のふるまいについても着目する。 『日本の現代美術と世界 1989-2010(仮称)』(国立新美術館:9月3日~12月8日)は、国立新美術館と、香港の現代美術館「M+」との初の共同企画となる展覧会。「M+」は、アジア初の視覚文化に特化したミュージアムで、2021年に開館。日本美術やデザインのコレクションも多数所有していることで知られている。同展は、昭和が終わり、平成が始まった1989年から東日本大震災の前年となる2010年までの約20年間に着目、冷戦が終わり、政治や経済、災害や事件など激動の時代だった日本において、人々の価値観はどのように多様化し、美術はどのように変化していったのかを複数の視点をもって再考していく。 奈良の興福寺にある北円堂は、鎌倉時代の仏師、運慶が携わった仏像が安置されていることで知られている。特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」(東京国立博物館 本館特別5室:9月9日~11月30日)は平重衡の焼き討ちで焼失し、鎌倉時代に運慶が復興した当時の北円堂内陣を7軀の国宝仏で再現する展覧会。ご本尊である《弥勒如来坐像》の寺外公開は60年ぶりとなるのでぜひ見ておきたい。さらに《無著菩薩立像》や《世親菩薩立像》など、運慶作品のなかでも著名で、ファンも多い作品も見逃せない。 文:浦島茂世