キラー・カーン追悼…アメリカでの出世を見てきた先輩レスラーが語った思い出「指一本触れずに女性を失神させる」【週刊プロレス】
全米各地でトップヒールとして活躍したキラー・カーンだが、日本マットでは無冠だったし、アメリカでもフロリダ地区のUSタッグ、ルイジアナ、ミシシッピ、カルガリー地区(スタンピード・レスリング)の各ヘビー級、エリック王国(WCCW)のTVと、意外にも獲得した王座は少ない。逆にいえば、ベルトの価値を超えた存在だった。もちろんそれは“大巨人”アンドレ・ザ・ジャイアントの足を折った事件がもたらしたものだ。 【超貴重写真】キラー・カーン戦で足を骨折して入院したアンドレ・ザ・ジャイアント とはいえ、それだけでトップヒールに押し上げらたわけではない。それにはある理由があった。キラー・カーンが入門した日本プロレス時代の先輩レスラーで、アメリカ遠征中にタッグを組んでいたミスター・ヒトが生前に連載していた専門紙の記事を再掲して、その秘密を探ってみる。(文中敬称略/橋爪哲也)
キラー・カーンの顔は、悪役としては最高だったね。顔だけで金が稼げたよ。オレは「ミリオンダラー(100万ドル)の顔」って言ってるんだけどね。 カーンは目が悪いんだよ。(裸眼だと)視力は0.1以下じゃないかな。少し離れるだけでよく見えなくなるから、目を細めて見るんだよ。それがまた、悪党ヅラにピッタリなんだ。あれは持って生まれたものだ。でも、それでもどうすればもっと悪党らしい顔になるか、研究してたなあ……。 あれはフロリダだったかな? 場外乱闘の時、興奮したおばさんが、カーンの背中を叩いたんだ。で、怒ったカーンは振り返って、そのおばさんの顔に自分の顔を近づけて怖い表情を作ったんだよ。さすがに気の強いおばさんでも、あんなに大きな顔が、自分のすぐ目の前で怖い表情をするもんだからビックリしたんだろうな。そのまま泡を吹いて失神したよ。指一本触れずに女性を失神させるんだから、カーンも大したもんだよ(笑)。 まだコンタクトレンズがなかった頃、カーンは相手と離れるとよく見えないから、密着したレスリングを得意としてた。さすがにレスラーは体が大きいから少し離れてもどこにいるかはわかるんだろうけど、細かい動きまでは見えないから手探りでレスリングをしてた。でもフロリダで会った時は、離れて闘うレスリングがうまくなってるんでびっくりしたよ。まあ、コンタクトレンズを入れただけだったんだけどな。カーンからすれば、世の中が変わって見えたんじゃないか(笑)。 でも、コンタクトレンズをよく洗面台に流してしまってたよ。予備のコンタクトレンズを買っておけばいいのに、その頃はまだ高かったしな。今のように使い捨てのもなかったしな。だから片目だけコンタクトをして、もう一方の目は閉じて試合してたよ。まあ、それで怖い表情になるんだけど、片目だから距離感がつかめず失敗もしてた。 6人タッグでカーンと組んだ時、俺がタッチしようとコーナーに戻ったらカーンがいないんだ。場外乱闘してるような試合の流れじゃないし、“どうしたんだ?”って思ってコーナーの下を見たら、カーンが足首を押さえてのたうち回ってんだよ。試合後に、「なにしてたんだ?」って訊いたら、「踏み外してエプロンから落ちた」だって(笑)。 バカなことばっかり言ってるけど、カーンは器用な面もあるんだ。料理させたら天下一品。それも味つけだけじゃなく、包丁さばきからしてうまいんだから。 でも一番器用だったのは、あのダブルニードロップだよ。フォームもきれいだし、ノド元にグシャッと入るだろ。それもトップロープから飛んで決めるんだから。オレもカルガリーで食らったけど、その威力は……それは黙っておこう。 そういえばアンドレ・ザ・ジャイアントの足を折った時も、片方だけコンタクトレンズを入れてたのかな? もしそうなら、世界を驚かせた大失敗だよ(談)。