味の素の 「人を大切にする」包括的支援 多様な人財のWell-beingに寄り添う方法とは
働きやすい環境や福利厚生の充実は、従業員が安心して働く上で大変重要ですが、方向性を誤ると、働き手の積極性や主体性を損ね、組織への依存を招く可能性があります。どうすれば従業員のチャレンジを後押しし、キャリア自律や働きがいの実現につなげられるのでしょうか。 味の素株式会社では自身のキャリアを考える機会の設定や、ストレッチ目標を評価する人事制度、男性育児休業の取得推進、資産形成にまつわるナレッジ提供など、仕事と暮らしを両面から支援することにより、従業員のWell-being向上に注力。その取り組みが高く評価され、「HRアワード2023」企業人事部門 優秀賞を受賞しました。 取り組みの背景や具体的な施策について、同社執行理事でコーポレート本部 人事部 人事部長の山本直子さんと、施策の推進を担当された方々に聞きました。 [[「HRアワード」の詳細はこちら>https://jinjibu.jp/hr-award/]]
組織の包容力を高めることが、みんなのWell-Beingにつながる
――このたびは「HRアワード2023」企業人事部門優秀賞の受賞、おめでとうございます。従業員一人ひとりのWell-being向上に目を向けた、包括的な取り組みが評価されました。今のお気持ちをお聞かせください。 山本:ありがとうございます。今回の受賞を大変うれしく思っています。 当社の取り組みは“包括的”という言葉のとおり、何か一つ、インパクトが強い新しいことをしたということではありません。 私たちが行ったのは、キャリア自律を支援するイベントの開催や、一般職の人事制度の刷新、従業員の資産リテラシーの向上施策、男性の育児休業取得促進のための取り組み、テレワーク制度の整備と、一つひとつの施策は地味なものです。どの施策も遅効的な側面が強いので、多面的にアプローチしたことが評価されたのだと思っています。 佐藤:同じ会社で働いていても、個人のWell-beingは十人十色。従業員全員のWell-beingが向上する魔法のような施策はありません。複数の施策を組み合わせることによって、総合的に従業員の働きやすさや能力発揮につなげようとしている点を、評価していただけたのだと捉えています。 ――味の素ではかねてより、ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)経営をうたっていることで知られています。従業員とその家族のWell-beingに目を向けた人事施策は、どう位置づけられているのでしょうか。 山本:ASV経営は事業を通じた社会価値と経済価値の共創を図る取り組みで、現在は2030年に向けたロードマップに基づく経営を推し進めています。 ASV経営の源泉にあるのは、人財、技術、顧客、組織という四つの無形資産です。中でも人財は、すべての無形資産の価値を高める原動力といえます。味の素が従業員にとって「ここに集まってよかった」と思える場であり続けるには、一人ひとりの心身の充実、すなわちWell-beingが重要です。 当社では創業当時から「人を大切にする」という価値観が、連綿と受け継がれてきました。エンゲージメントサーベイでは従業員のロイヤリティが高いことが示されていて、良くも悪くも同質性の高さにつながっています。 今後は、時代の変化に合わせて多様な人財が多様な働き方で活躍できる環境を整えていく必要があります。組織としての包容力を高めることが、従業員のWell-beingや働きがいにつながり、ひいては会社の業績や安定的な経営に効果をもたらすと考えています。 ――従業員のWell-beingを図るために、どのような施策を展開しているのでしょうか。 山本:施策に落とし込むにあたっては、エンゲージメントサーベイの結果を重視しています。2016年から続けているサーベイの結果から、従業員のエンゲージメントと業績に相関性があることが明らかになっているからです。 調査を基に持続的なエンゲージメントのキードライバーを探っていくと、キャリア形成に関する要素がカギであることがわかりました。「自分らしいキャリアを描けているか」「成長できている実感はあるか」といった要素が、味の素で働く意義に直結しています。 中村:働くことは人生の一部に過ぎず、会社の外にいる時間をどう過ごすかも、Well-beingに関わってきます。コロナ禍以前から、コアタイムなしのスーパーフレックス勤務制度や「どこでもオフィス」というテレワーク制度が浸透しており、現在は、条件を満たせば国内外を問わずフルリモートで働ける「どこでもキャリア」という制度に発展しています。いずれも働き方の柔軟性を高めて効率よく仕事をこなすと同時に、趣味や家族との時間を十分に確保し、その人らしい生き方につなげてほしいという思いから始まったものです。 宮澤:福利厚生や働きやすさを実現する制度は、生活の不安要素を取り除くことで、従業員が安心して仕事に打ち込み、一歩踏み込んでチャレンジできるようにするためのものです。何が能力発揮の妨げになっているのか、どのように工夫できるのかを考えて制度を設計しています。 ――今回の包括的な取り組みにあたり、20代の従業員を中心とした若手の働きがいに注目されたそうですが、その理由をお聞かせください。 山本:エンゲージメントサーベイや外部の働きがい調査を通じて、若手従業員に対する課題が明らかになったことが理由の一つです。 当社のサーベイ結果によって、「若年層の実感」が他の年代層と比較して課題があることを確認しています。また、オープンワークが実施する調査で、当社は「働きがいのある会社」として上位にあるのですが、若年層の成長環境としては相対的に低いことがわかりました。 当社はありがたいことに、就職人気企業ランキングなどで高い支持をいただいています。学生の皆さんが期待して味の素に入社することを考えると、入社前後でギャップを感じている状況は看過できません。 若者の働きがいは、組織の活気に直結します。また社内に限らず、若い人たちの活躍がなければ、日本全体も活気に満ちることはないと思います。若手に見られる課題は、すべての世代にも当てはまることです。今取り組んでいる仕事がスキルアップや将来につながっていると感じられ、希望をもって未来のキャリアを描けるような働きかけや、仕組みの構築がWell-beingの向上には欠かせないと考えました。