味の素の 「人を大切にする」包括的支援 多様な人財のWell-beingに寄り添う方法とは
「若手の問題はミドルの問題」基幹職へのフォローも手厚く
――キャリア自律の支援の一環で、「キャリフェス」というイベントを開催したそうですね。 成岡:味の素では例年7月に定期異動があり、8月に従業員のキャリア開発計画を策定するサイクルを30年ほど前から続けています。キャリア開発計画では、個々の強みや専門性の棚卸し、将来のありたい姿や中長期目標の設定などを行い、自身のキャリアについて考えを深め、上司との面談で共有します。 一方で、近年は会社を取り巻く環境や事業展開の変化に伴い、問われるスキルや経験の移り変わりが早くなっています。さらに価値観の多様化も加わり、従業員から「キャリア計画を立てにくい」、マネージャーにあたる基幹職から「部下へのアドバイスが難しい」といった声を多く聞くようになっていました。 そこで7月から8月にかけて、自分のキャリアについて考え、キャリアにまつわるナレッジや観点を習得する機会を設けることにしました。当初は「キャリア強化月間」と呼んでいたのですが、もっとカジュアルでワクワクするような雰囲気にしたいと思い、「キャリフェス」というネーミングにしました。 ――“フェス”というだけで、なんだか楽しそうですね。 成岡:期間中は、オンラインで複数のセッションやワークショップを実施しました。事前申し込みは不要、気になるものがあればお昼休みに30分程度ご飯を食べながら視聴できるようにするなど、気軽に参加できるものもあります。 さまざまな人に興味を持ってもらえるように、有識者によるセミナーをはじめ、幅広い内容のコンテンツを用意しました。キャリア面談をテーマにした講座では、一般職向けには「面談の臨み方」、基幹職向けには「面談の進め方」と対象を分け、より充実した場にするために双方とも何ができるのかを考えられるように工夫しました。 好評だったのは、従業員による経験談シリーズです。役員、基幹職、一般職など幅広い従業員をゲストに招いて、自身のキャリアを語ってもらうトークイベントを配信しました。事務局からゲストにお願いしたのは、「“どのような仕事をしてきたか”ではなく、“キャリアについてどのようなことを考えていたか、転機をどう受け止めたか”を中心に語ってほしい」ということのみ。自由に話してもらうことで、リアリティを共有できるようにしました。 企画した時点では意図していなかったのですが、何人ものゲストが偶然の機会」の重要性について語っていたのが印象的でしたね。「この職場に配置されたことが、今につながる転機となった」といった話を聞いた従業員から、「キャリアは逆算で考えるだけでなく、目の前の機会を生かすことも大切だと気づいた」などといった感想が多く寄せられました。 宮澤:私も参加者の立場で、社内公募制度を利用してキャリアチェンジを図った人や、他の会社から転職して現在の活躍に至った人の配信を視聴しました。どのような思いでキャリアを築いてきたかは、普段なかなか聞けないので、非常に面白かったですね。 ――一般職の人事制度の刷新は、Well-beingとどのような関係性を持たせたのでしょうか。 佐藤:焦点となったのは、「チャレンジを後押しする仕組みをどう築くか」でした。 従来の制度では、一般職は職能資格制度を採用していて、職務や職責などジョブ型の要素は基本的に含まれていませんでした。成果に待遇が左右されにくく、安心して働き続けられる一方で、「やってもやらなくても同じ」とネガティブに作用する側面があったのです。 たとえば入社数年の若手が難しい仕事にアサインされて活躍しても、職能グレードが上の従業員が評価されるといったケース。成長できる仕事が目の前にあっても、評価につながらないのであれば、若手は挑戦しなくなってしまいます。 こうした問題の傾向はエンゲージメントサーベイに表れていて、「有能な人の適切な昇進ができているか」「パフォーマンスを発揮できていない人に適切な処遇が行えているか」といった設問のスコアが低い状況でした。これでは本人だけでなく、周囲のモチベーションにもマイナスの影響を与えます。労働組合との協議でも課題として取り上げられ、労使でプロジェクトを立ち上げて新しい評価の枠組みをつくることにしました。 具体的には、目標設定の時点でチャレンジしたいテーマを定めて、加点する仕組みを設けました。また、評価にジョブ型の要素を取り入れ、成果を上げたらさらに高度な仕事に就けるようにしました。基幹職への昇進は、年に1度から、ジョブ型制度を導入済みの空いているポジションであれば、昇格有資格者は毎月1日づけで登用可能としました。 ――評価の仕方が大きく変わっていったのですね。 佐藤:評価の仕方が大きく変わると、評価を受ける一般職以上に、評価者である基幹職には制度を深く理解し、公正に評価することが求められます。そのため4月の制度導入に先がけ、2月から3月にかけてすべての基幹職を対象に、考課者トレーニングを実施しました。このときは目標設定編として、各グレードに適した目標やチャレンジについて、ケーススタディを主体に取り上げました。 山本:若手の評価については、基幹職も悩んでいます。先日も九州の支社に出向いたところ、グループ長や統括などミドルマネジメントが集まって、どうしたら誰もが納得できる評価になるかを話し合っていました。 評価の仕方が変わったことで、基幹職には部下をより深く観察し、対話を重ねていくことが求められるようになりました。従来よりも負荷がかかりますが、それでも基幹職は、しっかりと受け止めようとしてくれています。私たちも、ちゃんと評価してくれた人を評価し、応援したいので、コーチングセッションを設けるなど、ミドルマネージャーの支援に力を入れているところです。