多重下請けに買い叩き、日本の物流を壊した元凶 長距離トラック運転手の労働環境が悪化した「歴史的要因」
新たな時間外労働規制の適用で、トラックドライバーの長距離運行に制限がかかる――。この「物流2024年問題」により、多くの業界関係企業が現在も対応に追われている。事態はなぜ深刻化したのか。担当記者が解説する。 ※記事の内容は記者による解説動画「Q Five」からの抜粋です。外部配信先では動画を視聴できない場合があるため、東洋経済オンライン内、または東洋経済オンラインのYouTubeでご覧ください。 【動画を見る】物流危機はなぜ深刻化?多重下請け構造化の根本要因/低賃金・長時間労働が定着/ヤマトが挑む40年越しの輸送改革/アマゾン自社配送の現在地と課題 Q:物流危機を深刻化させた「悪循環」の構造とは?
物流危機が深刻化している要因はたくさんあります。中でも注目したいのは、「多重下請け」の構造、そして「荷主(=荷物の輸送や保管を依頼する側の企業)優位」の構造。これらは長い年月の中で業界に定着してしまった、根の深い問題です。 振り返ると、「物流2法」の施行によって、運送業が免許制から許可制に変わったのが1990年のことでした。事業を始めるのに必要な車両の台数なども緩和され、そこから新規参入が相次ぎます。結果、この30年で業者の数は1.5倍の、6万2000~6万3000社程度まで膨張しました。
業者の数が増えれば、価格競争は激化します。また、物流は季節によって物量の変動が激しい業種でもあります。そういった背景から、(経営をスリム化する目的で)仕事を下請けに出すことが当たり前になっていきました。こうして、多重下請けの構造が作られていったわけです。 最近の大手の手がける案件でも、「6次下請け」のような形になっている例は実際にあり、最終的に荷物を運ぶ会社が「どこが元請けなのかわからない」となるケースもあるといいます。
こうした多重下請け構造の中では、「水屋」と呼ばれる、車両を手配してマージンを抜いていくだけというブローカーの存在も目立ってきており、これを問題視する業界関係者が増えています。 ■本来業務でないことも当たり前に押し付け 次に、荷主優位の構造についてです。運送業者の数が非常に多くなったため、荷主が優位な立場で業者を選別するようになっていきます。 「この運賃で受けてくれないならほかに頼む」と言われてしまうと、運送会社としては苦しい。こういった点に付け込む「買い叩き」の行為は、業界では20年、30年と続いてきました。