“マトリ”の事務所を取り囲んだファンが「イエスタデイ」を大合唱 ポール・マッカートニー「成田で大麻逮捕」秘話
2025年6月に83歳を迎える英国のミュージシャン、ポール・マッカートニー。2022年から2年間にわたる「GOT BACKツアー」やライヴ・ドキュメンタリー映画「ポール・マッカートニー&ウイングス - ワン・ハンド・クラッピング」の劇場公開など、近年も新たな話題を提供し続けている。 【レア写真】明るい…? 釈放で報道陣に囲まれたポールが「まさかの表情」 ポールは日本に度々訪れているが、実は「日本側がビザ発給拒否」「成田で現行犯逮捕」という過去もある。特に1980年1月16日の逮捕は世界が注目するニュースとなった。いまや生きる伝説になった大物ミュージシャンの「逮捕現場」を、当時の麻薬捜査官や関係者たちが振り返る。 (全2回の第1回:「週刊新潮」2005年1月27日号「大麻逮捕から25年『ポール・マッカートニー』来日秘話」をもとに再構成しました。文中の年齢、役職等は掲載当時のままです。敬称略) ***
来日2日前に情報が入っていた
当時、厚生労働省の「関東信越地区麻薬取締官事務所」があったのは東京・中目黒。1980年1月16日、同事務所の横浜分室に勤務していた小林潔(62)は応援要請の呼び出しを受け、中目黒の事務所へ向かった。 「応援というのは、この日、日本公演のために成田空港に到着するポール・マッカートニーを逮捕し、所要の調査をすることでした」 と、麻薬取締部捜査1課長を最後に退官した小林が、当時を振り返って言う。 「実は、来日する2日前の14日に『ポールが麻薬を持っている』という情報が入ったんです。東京税関成田支署がこの情報をキャッチし、うちの情報官室に伝えてきていたのです。相手が相手だけに大騒ぎになることが予想され、中目黒の事務所に総動員がかけられたわけです」 当時、成田空港は開港してまだ2年目であり、千葉県警は過激派対策などで多忙であった。このため、成田の税関と同事務所は、薬物検査に関しては完全にタイアップしていたのだ。
ポールのことを知らなかったのは所長だけ
16日の午後3時、ニューヨーク発のパンナム機で成田へ到着したポールは、税関で足止めを食らった。 情報通り、所持品から大麻が発見されたことが税関から事務所に伝えられ、主任情報官以下、5人の取締官が成田へ向かった。大麻が自分のものであることを本人が認めたため、午後8時前にポール・マッカートニーは現行犯逮捕され、手錠姿で中目黒の事務所へ連行された。 世界でも指折りのビッグスターの逮捕に、事務所内には緊張が走った。さすがにポール・マッカートニーの名は、ほぼ全取締官が知っていた。 「ポールのことを知らなかったのは当時の所長だけでした。『機動隊の出動要請も必要だし、報道対応もしなければ』という我々の制止も聞かず、所長はその夜、山梨へ出張に出かけてしまったのです。騒ぎに驚いて翌朝一番に戻ってきましたが、その夜、うちの事務所で警備の指揮を執っていたのは目黒署の署長ですよ」 ポールが到着した午後10時過ぎには、大勢のファンが事務所の周辺に集まっていた。 「事務所の周りを囲んでファンが歌うんですよ。高校生のグループがラジカセでテープを流して歌い出したのがキッカケで、その場にいたファンが『イエスタデイ』を大合唱し始めた。他にも何か歌っていたけれど、分からないね。私が知っていたのはその曲だけだから。芸能人を逮捕する都度、ファンが見に来たものだけれど、多くてもせいぜい数十人。しかし、表には300人くらいいた」(同)