“マトリ”の事務所を取り囲んだファンが「イエスタデイ」を大合唱 ポール・マッカートニー「成田で大麻逮捕」秘話
ポールに怯えた様子はなかった
事務所には留置場がなく、有名人を逮捕した場合は警視庁本部に連れて行く決まりになっていた。警視庁は当時、建て替え中であり、ポールが留置されたのは西新橋にあった仮庁舎である。 深夜、ポールに手錠をかけて警視庁に連行した小林は、ポールのショーマンシップに感心したという。 「彼は特に怯えた様子はありませんでしたね。相手に嫌われないような表情や仕草を本能的に心得ていたのだと思う。取調べに対して、他人の悪口を言ったり、とぼけて見せたりする日本の芸能人とは対照的でした。我々に会っても、ニコニコ顔で『オハヨー』などと言う。『日本じゃ、オハヨウゴザイマスが正しいんだ』と教えてやりましたがね」 計11回の開催予定だったコンサートの前売り券10万枚が完売していたが、勿論、全て中止になり、ポール逮捕による損失は、5億円とも報じられた。
所持量はなんと219グラム
松尾翼弁護士が、旧知の間柄だったリー・イーストマン弁護士から電話を受けたのは、日付が変わった17日の午前1時頃だった。イーストマンはポールの妻リンダ(98年に乳ガンで死去)の父で、ニューヨーク在柱の弁護士だった。 「私の娘婿のポール・マッカートニーが、先ほど成田空港でマリファナ所持の理由で逮捕された。至急、リンダに連絡を取って、ポールの弁護をしてほしい」 松尾は早速リンダやマネージャーが泊まっているホテルオークラへ行き、事情を聞いた。そして楽観を許さない状況であることを知った。イギリスでもマリファナは法律上禁じられていたが、違反しても罰金刑で済む。一方、日本は大麻の密輸は最高懲役7年。5グラム以上で起訴されるのが通例だったが、ポールは実に219グラムも所持していたのだ。 「起訴後の執行猶予は期待できそうだったが、最低2カ月の勾留は覚悟せざるを得ないと思った」 逮捕の4日後、リンダの兄で、やはり弁護士のジョン・イーストマンが来日。イーストマンの決断は早かった。まずコンサート主催者側との補償協定契約を成立させ、即座にかなりの額を支払ったという。 *** 所持量の多さゆえポールが置かれた状況は厳しいものに――。第2回【なぜポール・マッカートニーは「スーツケース」の一番上に大麻を入れていたのか 世界を震撼させた「成田で現行犯逮捕」裏話】では、それでも長期の拘留とはならなかった「特殊な事情」や、後年にポール自身が語った当時の心境などについて伝える。
デイリー新潮編集部
新潮社