代表初招集の鈴木武蔵は待望のゴールゲッターとなれるのか?
群馬・桐生第一高時代の体力測定で50m走のタイムが5秒9をマーク。垂直跳びでは測定機器の上限だった90cmを大きく超えて測定不能とされた。ジャマイカ人の父と日本人の母の間に生まれた少年はしかし、自身の体に搭載された驚異的な身体能力を長くもて余してきた。 一転して爆発的なスピードをゴールに結びつけられるようになった背景は、長崎を率いた高木琢也監督(現J2大宮アルディージャ監督)の存在を抜きには語れない。現役時代は「アジアの大砲」と呼ばれた指揮官は「技」と「心」を、武蔵の卓越した「体」に叩き込んでくれた。 「動きで言えばプルアウェイをしながら、なるべく自分が前向きでゴールへ向かい、前向きの体勢でボールを受けるということでした」 オフ・ザ・ボールの動きのひとつであるプルアウェイとは、相手に近づいて(Pull)から素早く離れて(Away)マークを外すこと。身体能力に相手ディフェンダーとの駆け引きを融合させる作業と同時進行で、高木監督は幾度となく「いまのお前じゃ絶対に点を取れない」と諭し続けた。 「練習後によくクラブハウスへ呼び出されまし、グラウンドでもよく話しました。僕は試合中にちょっと焦ってしまうことがあるので『フォワードは焦ったら絶対にダメだ、練習からゴールを決められる選手が試合でもゴールを決める』と言われました。練習から100%で臨んで、試合でも練習と同じように落ち着いて、練習通りにやれ、と」 日本代表として44試合に出場し、歴代7位となる27ゴールをあげた高木監督から受けた薫陶は、いまも力強く脈打っている。そして、新天地では超攻撃的なサッカーを標榜し、昨シーズンの札幌をクラブ史上最高の4位に導いたミハイロ・ペトロヴィッチ監督との出会いが待っていた。 サンフレッチェ広島と浦和レッズも率いたペトロヴィッチ監督は、攻撃のバリエーションを多彩にする論理的な指導を信条とする。昨シーズンに衝撃を覚えたというFW都倉賢(現セレッソ大阪)は、ミシャの愛称で知られる指揮官のサッカーをこう表現したことがある。 「ディフェンスの選手にあれだけ『ボールを前へ運べ』と言う監督はまずいません。まったく知らなかったことに出会い、サッカー観や考え方における幅や深みが増えたことで、次に何をしなきゃいけないかを考えられる。成長への新たなサイクルが、ミシャと出会ったことで自分のなかに生まれている」