印刷のズレ楽しむ文化を ── 孔版印刷に注目集まる
ズレて、かすれて、ムラも出る──。これまで欠点とされがちだった孔版印刷の仕上がり具合を、逆転の発想で手作り感覚の持ち味として提案し、口コミで話題を集める印刷会社がある。大阪市北区豊津のレトロ印刷JAMだ。常識を小気味良くくつがえし、印刷の世界に新風を吹き込む。
独創的なブックイベント「とじてん」
レトロ印刷JAMでこのほど、「とじてん」と題する独創的なブックイベントが開催された。主催は大阪の古書店有志の活動ユニット「コフブックセラーズユニオン」で、JAM社は印刷実務と会場提供でサポート。古書店と印刷会社による異色のコラボレーションは、本好きな同社スタッフ山本かおりさんの仲介で実現した。 「架空の雑誌の架空の記事」をテーマに、全国から2ページずつ原稿を募集。審査で選ばれた100人あまりの架空記事約200ページを、印刷してページごとに展示。参加者に好みのページを選んで編集してもらい、製本して販売するという試みだ。 金魚、妖怪、青春川柳、バウムクーヘンなど、記事内容はバリエーションに富む。表紙も17種類から選択できる。さながら気分は編集長だ。女子高校生は「たくさんあって迷いそう」と真剣な表情。「好きなイラストレーターさんがツイッターで紹介していたので、のぞいてみました」と話すのは、20代の女性フリーター。できあがったばかりの雑誌を、「うれしいですねえ」と大切そうに受け取っていた。 「とじてん」は大阪弁の「本をとじてん(とじました)」の意味合いを含む。会場内に製本機を設置。参加者はスタッフから説明を受けながら、スタートボタンを押すなどして、製本工程を体験できる。山本さんは「皆さん世界で一冊しかない雑誌を編集されたと思います。印刷した段階では紙のままですが、とじた瞬間、一冊の雑誌に変身するところが感動につながるのではないでしょうか」と分析する。 誌面にふれると、適度なざらざら感が心地よい。すべての誌面は「ズレて、かすれて、ムラも出る」レトロ印刷で刷り上げられた。