印刷のズレ楽しむ文化を ── 孔版印刷に注目集まる
レトロ印刷に適した特注用紙を導入
レトロ印刷とはデジタル孔版印刷機を使用した印刷方式。一般的なオフセット印刷とは原理が異なり、孔版印刷は版ズレや印刷のかすれ、インクの色ムラなどが生じやすい。 従来は短所とされがちだったが、同社では2007年ごろから、そうした孔版印刷特有の仕上がり具合を、昔懐かしい風合いや手作り感覚を醸成しやすい長所と評価。「レトロ印刷」と名付けて、じんわりアピールしていた。今ではデジタル孔版印刷機に加え、シルクスクリーンや謄写版(ガリ版)をそろえた孔版印刷の専門会社を自認する。 背景として、ZINE(ジン)と呼ばれる自主制作出版物への関心拡大が見逃せない。ZINEは個人が自由なテーマで編集する小冊子類で、同社も毎月、多くの個人雑誌の印刷注文をこなす。「ZINEならレトロ印刷JAMへ」という口コミが広がっているが、現状に甘んじていない。 今春、レトロ印刷と相性のいいオリジナル用紙を導入した。共同経営者である山川正則社長と小林光一取締役が製紙会社行脚の末、開発にこぎつけたものだ。 理想は厚手のわら半紙。実際に昨秋刈り取られた稲わらの成分が含まれているという。山川社長は「製紙会社へ飛び込み訪問して門前払いを食らうこともありましたが、インクをよく吸収する理想的な紙を入手することができました。レトロ印刷に適した紙やインクの種類を増やし、レトロ印刷の良さを最大限に引き出していきたい」と話す。
プロアマ問わずクリエイティブな人を応援
会場の一隅に、多彩なフライヤーが置かれている。通称「JAM置き」コーナー。顧客が同社で作ったフライヤーを並べ、イベント告知などに役立てることができる。印刷会社が印刷機能に加え、情報交流の機能も担い始めたわけだ。 今月18日、初めての音楽会を開催する。コンサート関連のフライヤーを作成するアーティストたちと対話を重ねるうち、顧客応援の自然な流れで実現したものだ。印刷所が各種ライブ会場になる時代を迎えた。 ワークショップが毎月開かれ、レトロ印刷のファンが徐々に増えている。印刷工場ピクニックと呼ぶ工場見学会が好評。東京や東北でもワークショップを開催予定。山川社長は「プロアマを問わず、クリエイティブな人たちを応援し、豊かな心と生活を育みたい。当社のシンプルで変わらぬ企業理念です」と、謙虚に語る。 現在、世界で孔版印刷機を製造しているのは、日本の印刷機器メーカーだけ。孔版印刷は日本の技術と国際的に評価され、同社でも海外からの来訪者が増えている。小林取締役は「孔版印刷を文化として受け継いでいきたい。印刷のズレを楽しむ文化を創造していければ」と、静かに意気込む。 ときには精度や完璧さにとらわれることなく、偶然のズレを味わうゆとりを持ちたいものだ。詳しくはレトロ印刷JAMの公式サイトで。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)