アメリカ偉人伝!【マーティン・ルーサー・キング・ジュニア】人種差別の解消に尽力した偉人の語られざる顔とは!?
「I have a dream」の一節で知られる名演説を行い、人種差別の解消を求める公民権運動の指導者として歴史に名を残すマーティン・ルーサー・キング・ジュニア。1968年に39歳の若さで暗殺されてしまったキング牧師を、モーリーはどう見ている!?
彼について語るには、少し背景を知っておいたほうがいいですね。まず初期のアメリカ憲法では、奴隷制が容認されていました。州の自治権としてね。南部には奴隷州がたくさんあり、州によっては白人の数のほうが少ない。まともに選挙をすれば、白人の議員が減ってしまう。そこで全13州の間で妥協したのが、選挙では黒人を0.6人として数えるということ。すべての人間の平等を憲法で謳っているにもかかわらず。つまり大前提として、アメリカの憲法には奴隷州の利益が組み込まれていたということ。長期的な理想が謳われており、それが長いこと現実と矛盾してきたわけです。奴隷制度は建前上なくなったけど、あらゆる面で黒人を隔離し、貧しいままにしておく構造は変えたくない。こうして政治的な利害が構造に組み込まれたんです。 そしてもうひとつ。キリスト教の福音派が、宗教観に基づく黒人隔離を熱烈に広めた。黒人は道徳を守らず、堕落的だと。道徳という言葉が盛んに使われ、それはつまり黒人を隔離しろという意味でした。ところが、これが崩れはじめる。牧師たちが聖書を引用し、そんなことはどこにも書いていないと論破した。道徳の第一線が突破され、そうなれば政治家や資本家も動きます。たとえば、黒人はバスの席を白人に譲らなければならなかったのですが、それは嫌だという黒人が出てくる。バス会社も客が不愉快なのは困るから、利害が一致するわけです。 そこに出てきたのがキング牧師。彼の影響が強まるのを見たFBIは、ソビエトの壮大な謀略だといいだした。ところが、いくら調べても共産主義の影がない。そこで「じゃあ女だ」と調べたら、もうたくさん出てきた。彼はアイドルでモテたから、至るところに愛人がいたんです。FBIは録音を匿名でキングに送り、早く自殺しろと脅迫した。有名な伝記作家の話によれば、脅された彼はパニックで過呼吸になったそうです。カリスマ的に世の中を変えようとすることで受けていたストレスを癒すために、あちこちのファンに手を出していたと。彼はもともとおとなしい性格で、人前に出て闘うタイプではありませんでした。 その後、ワシントンでの有名な演説があります。これも伝記作家がいうには、編集版ではなく全文を読んだほうがいいと。僕も読んでみました。敵対勢力への批判をかなりしていて、格好いい面との両面性がある。彼のそうした面や、大きなプレッシャーを抱え、愛人を作っていた部分も含めて見ないと、ただの偶像になってしまうんです。敵対する人が揚げ足を取れば、公民権運動全体を否定できてしまう。そうならないためにも、きちんと検証するべきだと、その作家は語っています。いろいろな面のある1人の人間が、プライバシーや命を賭けて語ったのが、あの演説だった。そう見たほうが、彼の人物像を立体視できると思います。 現代社会に起きているのは、格差や環境、人種やジェンダーの平等といったことを連結して考えるZ世代と、黒人コミュニティを含む保守性とのせめぎ合い。だからこそ、キングの抱えていた強さと弱さから普遍性を見出すことが必要ではないでしょうか。ただ、彼はある意味アンタッチャブルで、不都合な部分が語られにくい。そこをどう超えていくか。 彼の亡くなった後が、また大変でした。暗殺の翌年から、誕生日を祝日にしようという動議が毎年出され、否決され続けた。南部の州が結託すればなんでも否決できるんです。それを見かねたのがスティービー・ワンダー。3年ほど芸能活動を休んで、記念日制定のデモをやった。動議は通りました。しかも保守的なレーガンの署名でね。白人にも人気のあったスティービーのような人が、この運動を後押しした。これが実は、ホイットニーがハーフタイムショーで国歌を歌ったことにも繋がります。そしてオバマにも。