少年院の「学び」の必要性は? 通信制高校の入学支援で再犯防止
少年院は家庭裁判所から保護処分として送致された少年に対し、健全な育成を図るために矯正教育や社会復帰支援を行う施設です。法務省は2024年度から全国の少年院で、高校を中退した人などが通信制高校に入学できるよう支援する取り組みを始めています。対象者は高校の卒業資格を持たない少年で、少年院にいるうちのおよそ6割が該当するとみられています。この取り組みを東京にある多摩少年院では全国の少年院に先立ち、2018年からモデル事業として始めています。多摩少年院で通信制高校の学習を行う少年に話を聞き、「少年院での学びの必要性」を取材しました。 1923年に日本初の少年院として開設された八王子市にある多摩少年院には、現在、関東近県から16歳以上の男子少年およそ130人を収容している矯正施設です。この少年院では都内の私立高校と連携して、少年院の中で高校の通信制課程に編入学する制度を用い、少年たちに「学びの場」を提供しています。 今回、取材に応じてくれたのは通信制高校に在学し受講している少年です。この日も、少年は倫理の教科書を開き、真剣なまなざしでプリントに解答を書き込んでいました。収容されている少年たちは午前7時に起床し、定められた矯正教育を受け、午後9時に就寝する生活を送っています。少年たちは与えられる余暇の時間を自習に充てているといいます。 自習後に少年に話を聞くと「これまでは勉強と向き合っていなかった」と、過去の自分への後悔を口にしました。少年は「昔は本当に学校の教育は二の次で、遊んだり何か楽しいことをしたいという気持ちばかりだった」と話した上で「過去に出合っていたら、もっと今より別の道が見えていたらと思うと、学校の教育にしっかりと向き合えず少し後悔している」と語りました。 彼は通信制高校の卒業に向け学習を進めている中でも「倫理の科目が面白い」と話し、学ぶことでさまざまな“気付き”があると教えてくれました。少年は「自分の知らないことを知ると、なんと表現すればいいか分からないが、胸の中がぱっと花が開くような感覚がする」「一生涯を懸けて、たった一つの哲学や思想に対して前向きに取り組む姿勢を倫理の中で感じて、僕も生涯を懸けてやり通すことや、やり続けたいものを見つけられたらいいなと思っている」と語りました。 そして「学ぶ」という経験を通じ、将来の進路について徐々に考えるようになったといいます。少年は「将来は仕事をしながらいずれは進学したい。自分の中で一生懸けてやり遂げるものを見つけていきたいというのが、今時点での目標」と話してくれました。また「僕自身、人と関わる仕事がしたいなというのがある。何より、子どもやいろいろなものを支える人たちに心が動くようなものを作っていきたい」と将来の夢を語ってくれました。 担当の教官は通信制課程の取り組みにより少年らの進路の選択肢を増やし、再犯防止につなげたいと話します。多摩少年院の担当教官は「学びの継続は進路選択の幅が広がる。そして、生きる力を育み、出院後の生活の安定には学び続けることが極めて重要だと考えている」とした上で「学ぶというのは確かな学力、豊かな人間性を育み、再犯の防止につながると信じている」と話しています。 <「学びの場」が再犯・非行の防止に 一方で課題も…> 少年院の矯正教育としては、被害者の心情の理解や自身の行動を見つめ直すことがもちろん重要ですが「学びの場」があることが再犯や非行を防ぐための大きな要素だというデータがあります。 法務省によると、少年院を出た後の保護観察期間中、再び保護処分や刑事処分を受けた割合は「無職」の場合には30.0%ありましたが、「学生・生徒」の場合には12.4%、「職に就いている」人は14.1%となっていて、教育を受けること、あるいは手に職をつけることの重要性がうかがえます。多摩少年院ではパソコンを使って事務処理や画像制作などのICT関連の職業指導も進めているということです。 その一方で、法務省の担当者に取材をすると「通信制高校の編入には金銭の負担が発生するため、金銭的に断念する人もいる」「出院後にどう学習を継続していく環境をつくっていくか」など、一筋縄ではいかない課題も見えてきました。多摩少年院の教官は「少年たちが地域社会で孤立せずに生きるためには、政府・自治体・学校・民間が一丸となった協力が必要」だと述べています。