ヤクルト 山田に見えてきたトリプルスリーと夢の「4冠王」
プロ野球では、いわゆる3割、30本、30盗塁のトリプルスリーが走攻守の揃ったプレーヤーの称号とされている。別表を見てもらえばわかるが、過去には8人しか達成していない難しい記録だ。そのうちタイトルにつなげたのは、1950年の岩本義行氏の34本、1953年の中西太氏の36本のいずれも本塁打王のみ。1950年には、松竹のチームメイトの金山次郎氏が、74盗塁で盗塁王、1953年にはレインズ(阪急)が61盗塁でタイトルを獲得していて、トリプルスリーが2冠にはつながらなかった。 トリプルスリー最後の達成者である松井稼頭央(2002年、西武)は、打率.332、36本塁打、33盗塁の数字を残したが、首位打者は.340の小笠原道大(当時日ハム、現中日)、本塁打王は55本のカブレラ(西武)、盗塁王は谷佳知(オリックス)の41個で、それぞれの部門に強烈なプレーヤーが存在していたため、いずれもタイトルには手が届かなかった。 そう考えると、タイトルはその時々の相対関係に大きく左右されるものだ。今季は幸いにして、掛布氏が指摘するように山田がどうあがいても勝ち目のないようなライバルは、本塁打部門にも盗塁部門にもいない。打率、打点部門にしてもそうだ。大きなチャンスが転がっているのである。 山田自身は、「僕はホームランバッターじゃない。ヒットの延長。大きいのを狙いはじめるとおかしくなる」と、自らを中距離打者と評しているが、掛布氏もその姿勢を貫くことが、タイトルに結びついていくと見ている。 「過去のトリプルスリーを達成した、どの選手とも違う新しいタイプのバッターだね。バッティングで言えば、スイングの振り出しが小さく速くて、コンパクトだ。体の近くでボールを芯で捉えることができているからぶれない。左足を少し大きく上げるようになっているが、ボールを長く見るという意識が植え付けられている証拠だろう。 片足で立っている状況というのは、突っ込まない状態だから、体の回転を使えている。おそらく今は150キロのボールが感覚的にスローボールに見えているのではないか。必然、ぶれがないので打率も上がってくる。 彼は、ホームランの短縮がヒットというタイプではなく、ヒットの延長がホームランなのだろう。それでいいと思うし、ホームランを意識するとおかしくなるので、そこと怪我だけに注意すれば、本塁打、打点、打率、盗塁王と、すべての可能性が広がっていくよね」 明日順位がどうなるかわからないペナントの動向と同時に、山田のタイトル挑戦の行方も楽しみである。